梅堯臣「雪夜 梁推官を留めて飲む」

本日は北宋の詩人・梅堯臣の詩「雪夜(せつや) 梁推官(りょうすいかん)を留(とど)めて飲(の)む」を読みます。

雪の降る晩、客人と向かい合って酒を飲んでいる…風情のある詩です。

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雪夜留梁推官飲 梅堯臣
昼雪落旋消
夜雪寒易積
燈清古屋深
爐凍残煙碧
為沽一斗酒
暫對千里客
酒薄意不浅
軽今須重昔
重昔是年華
飄飄猶過隙
一醉冒風帰
平明馬無跡

雪夜(せつや) 梁推官(りょうすいかん)を留(とど)めて飲(の)む 梅堯臣(ばいぎょうしん)
昼(ひる)の雪(ゆき)は落(お)ちて旋(たちま)ち消(き)ゆ
夜(よる)の雪(ゆき)は寒(さむ)く積(つも)り易(やす)し
燈(とう)清(きよ)くして古屋(こおく)深(ふか)く
爐(ろ)凍(こお)りて残煙(ざんえん)碧(あお)し
為(ため)に一斗(いっと)の酒(さけ)を沽(か)い
暫(しばら)く千里(せんり)の客(きゃく)に対(たい)す
酒(さけ)は薄(うす)くとも意(い)は浅(あさ)からず
今(いま)を軽(かろ)んじては須(すべ)からく昔(むかし)を重(おも)んずべし
昔(むかし)を重(おも)んずるは是(こ)れ年華(ねんか)の
飄飄(ひょうひょう)として猶(なお)隙(げき)を過(す)ぐるがごとくなればなり
一酔(いっすい) 風(かぜ)を冒(おか)して帰(かえ)る
平明(へいめい) 馬(うま) 跡無(あとな)し

現代語訳

雪の夜、梁推官を留めて飲む
昼の雪は落ちてたちまち消える
夜の雪は寒くて積りやすい
灯火はほの暗く古びた家は深みをまし
いろりは冷たくなって、残った煙が青くただよっている
あなたのために一斗の酒を買い
しばらく千里の旅人と向かい合う
酒は薄いが心は浅くない
今のことより昔を大切にするがよい
昔を大切にすることは、年月が
風に吹かれるように過ぎていくのが、まるで馬がわずかな隙間を走り通るように速いのに似ているからに他ならない
ひととおり酔ってから、あなたは吹雪の中を無理して帰っていく
夜明けにはもう馬の足跡は消えていた

語句

■梁推官 未詳。梁は姓。推官は州知事の補佐官。 ■旋 たちまち。…するとすぐに。 ■灯清 「清」は灯火のほの暗いことをいうか。 ■一斗酒 一斗は日本の一升ぐらい。 ■千里客 梁推官のこと。これから旅立つのか旅から帰ってきたのか不明。 ■年華 すぎゆく年月を花にたとえた。 ■飄飄 風に乗ってとぶようす。 ■過隙 わずかな隙間を馬が走り抜けること。時間があっという間にすぎるたとえ。『莊子』盗跖篇などに見える。 ■平明 夜明け。「平明送客楚山孤」(芙蓉楼送辛斬 王昌齡)。 ■馬無跡 雪で足跡がかき消されること。

解説

吹雪の夜に客人と向かい合って二人で飲んでいる。しっとりとした雰囲気が出ています。

後半がとくによいです。重昔是年華 飄飄猶過隙……昔を大切にして欲しいのは年月というものが飄々として過ぎていくことが、まるで馬がわずかな隙間を走りすぎて行くほど早いのに似ているから。

昔のことは忘れ去られていく、人々の記憶に残らなくなっていく、だからこそ昔を大切に、思い出を大切にしてほしいと。

そして最後の聯です。一醉冒風帰 平明馬無跡……一通りあなたは酔ってしまうと吹雪を押して帰っていった。それはまだ暗いうちに帰っていったんです。

そして「平面」夜が明けると、もう馬の足跡は吹雪にかき消されて、なくなってしまっていた。いかにも目に画像が浮かぶじゃないですか。

北宋の詩人、梅堯臣。日本ではあまり知名度がないですが、この方はちょっと変わった詩を読むんですね。

日常的な、例えば猫とか、ミミズとか、カエルとか、カラスとか、あるいは奥さんとの何気ないやりとりとか……日常のことを、詩によんだ人物です。読んでいるうちにしみじみと、その味わいがにじみ出てきますよ!

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