「皆既月食・天王星食」によせて…「舟中夜興家人飲」梅堯臣
18時9分から月が欠けはじめ、19時16分にすっかり月が隠れる、皆既食状態になります。皆既食は86分間つづくそうです。その間、天王星が月の影に隠れる「天王星食」も見られます。
日本で皆既月食の最中に惑星食がおこるのは1580年、織田信長の時代(土星食)以来ということで、歴史的瞬間ですね!
というわけで、今夜は月にまつわる漢詩をおとどけします。
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梅堯臣「舟中(しゅうちゅう)夜(よる)家人(かじん)と飮む」
月の照らす晩、奥さんと二人で舟に乗って、酒を飲んでいるという詩です。
舟中夜與家人飮 梅堯臣
月出斷岸口
影照別舸背
且獨與婦飲
頗勝俗客對
月漸上我席
暝色亦稍退
豈必在秉燭
此景已可愛舟中(しゅうちゅう)夜(よる)家人(かじん)と飮む 梅堯臣(ばいぎょうしん)
月(つき)は断岸(だんがん)の口(くち)より出(い)で
影(かげ)は別舸(べっか)の背(せ)を照(てら)せり
且(か)つは独(ひと)り婦(つま)と飲(の)まん
頗(すこぶ)る俗客(ぞくきゃく)と対(たい)するに勝(まさ)れり
月は漸(ようや)く我(わ)が席(せき)に上(のぼ)り
暝色(めいしょく)亦(また)稍(ようや)く退(しりぞ)く
豈(あ)に必(かなら)ずしも燭(しょく)を秉(と)るに在(あ)らんや
此(こ)の景(けい)已(すで)に愛(あい)す可(べ)し
現代語訳
舟の中で夜、妻と飲む
月は断崖の端から出て、
その光はよその舟の背を照らしている
まずは差し向かいで、妻と飲もう
つまらぬ客と向かい合っているよりはるかにましだ
月はだんだん私の席上にのぼってきた
暗闇もまた、しだいに退いていく
どうして昔の人が言ったように、夜通し燭に火をともして遊ぶ必要があろうか
この情景こそが、じゅうぶん愛するに足るものだ
語句
■断岸 切り立った崖。 ■別舸 「別」はよその。「舸」は舟。 ■且獨與婦 まずは妻と差し向かいで。 ■俗客 つまらない客。俗人の客。 ■暝色 暗闇。 ■秉燭 ろうそくを手にして。「昼は短くして夜の長きに苦しむ、何ぞ燭を秉って遊ばざる」(古詩十九首)。
解説
北宋の詩人・梅堯臣は、日常の景色を多く詩によみました。たとえば猫、カラス、蚯蚓、蛙など。また梅堯臣は愛妻家としても知られ、亡くなった最初の妻(謝氏)のこと、再婚した妻(刁氏)のことを多く詩によんでいます。
は再婚した妻・刁氏(ちょうし。都官員外郎・刁渭の娘刁約)と、舟に乗って酒を飲んでいる詩です。
内容もすばらしいのですが、平仄(ひょうそく)においても特徴があります。五言八句四十文字すべてが「仄字(そくじ)」だけで構成されているのです。
これはある人が「古人の詩ですべてが平声(ひょうしょう)でしかもうまく調和しているのはあるが、すべてが仄字(そくじ。平声以外の、上声(じょうしょう)・去声(きょしょう)・入声(にっしょう))であるのは見たことがない」と言ったのに対して、作ったのがこの詩である、ということです。
平仄とは何ぞや?という解説は、こちらをご覧ください。
https://kanshi.roudokus.com/KanshiSemi03.html
そのほか梅堯臣の詩
夜、隣家の唱うを聴く
https://kanshi.roudokus.com/yoru-rinka.html
魯山山行
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猫を祭る
https://kanshi.roudokus.com/nekoomatsuru.html
蚯蚓
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雪夜 梁推官を留めて飲む
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