春日 醉ひより起きて志を言う 李白

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春日醉起言志
處世若大夢
胡爲勞其生
所以終日醉
頽然臥前楹
覺來盼庭前
一鳥花間鳴
借問此何時
春風語流鶯
感之欲歎息
對酒還自傾
浩歌待明月
曲盡已忘情

春日(しゅんじつ) 醉(よ)ひより起(お)きて志(こころざし)を言う 李白
世に 處(を)るは 大いなる夢の若(ごと)し
胡爲(なんすれ)ぞ 其(そ)の生(せい)を労(ろう)せんや
この所以(ゆえ)に終日(しゅうじつ)醉(よ)ひ
頽然(たいぜん)として 前楹(ぜんえい)に臥(ふ)す
覚(さ)め来(きた)って庭前(ていぜん)を盼(なが)めやれば
一鳥(いっちょう) 花間(かかん)に鳴(な)く
借問(しゃもん)す 此(こ)れ 何(いづ)れの時(とき)ぞと
春風(しゅうんぷう)に 流鶯(りゅうおう)語(かた)る
之(これ)に感じて歎息(たんそく)せんと欲(ほっ)し
酒に対して還(ま)た 自(みずか)ら傾(かたむ)く
浩歌(こうか)して 明月(めいげつ)を 待(ま)ち
曲盡(きょくつ)きて已(すで)に情(じょう)を忘(わす)る

現代語訳

人生は大きな夢のようなものだ。
なにもあくせくするこたあない。

そういうわけで、一日中飲んで酔っ払っている。
前の柱によりかかって、縁側で寝転がっている。

目が覚めて庭のほうを眺めやると、
花の間に鳥が一羽鳴いている。

私は尋ねる。「ウグイスさん、今何時かね?」
ウグイスは春風の中、木々の間を飛び回り、しきりにさえずる。

その歌声に感じ入り、ため息が出る。
そこでまた杯を傾け、飲む。

大声で歌い、月がのぼるのを待っていると、
歌える曲も尽きてもうわけがわからなくなってしまった。

語句

■胡爲 なんすれぞ。どうして~するのか。 ■勞其生 「生を労す」。生活にあくせくすること。 ■頽然 酔いつぶれるさま。 ■前楹 前の柱。 ■庭前 庭先。 ■花間 花の間に。李白「月下独酌」に「花間一壷酒」と。 ■借問 尋ねる。質問する。 ■此何時 何時だい? ■語流鶯 「流鶯」はウグイス。「語」はウグイスがさえずる様子。 ■對酒 酒と向かい合って。 ■自傾 手酌する。 ■浩歌 大声で歌う。 ■曲盡 歌う曲が無くなる。■忘情 わけがわからなくなる。意識が飛ぶ。

解説

実にノンビリした詩です。酒さえありゃあいいんじゃ、人生がなんぼのもんじゃという。でも破滅的ではないです。のほほーんとした感じです。

このテーマでは「将進酒」が印象に残りますがこの「春日醉ひより起きて…」もなかなかです。

「世におるは大いなる夢の如し」…なんてカッコいい書き出しでしょうか!『荘子』の「胡蝶の夢」の話が念頭にあるようです。

「なんすれぞ 其の生を勞せんや」ここは、島崎藤村「千曲川旅情の歌」に見える「この命なにを齷齪(あくせく)明日をのみ思ひわづらふ」を思い出します。まあ、藤村の詩はずっとマジメな感じですが。

昼間っから縁側で酒を飲み、ウグイスと語らう。過労死するまでトコトン働きまくる日本の常識からは考えられないことです。

しかも「明月を待ち」…。夜になるまで飲み続けるつもりらしいです。実に楽しそうです!ウィィーッと陽気に歌う、李白のその酒くさい息も漂ってきそうです!( ̄▽ ̄)。o0○

朗読:左大臣光永

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