憤りを書す 陸游

■【中国語つき】漢詩の朗読を聴く
■【古典・歴史】メールマガジン
■【古典・歴史】YOUTUBEチャンネル

▼音声が再生されます▼

書憤 陸游
早歳那知世事難
中原北望気如山
楼船夜雪瓜洲渡
鉄馬秋風大散関
塞上長城空自許
鏡中衰鬢已先斑
出師一表真名世
千載誰堪伯仲間

憤(いきどお)りを書(しょ)す 陸游(りくゆう)
早歳(そうさい) 那(なん)ぞ知(し)らん 世事(せじ)の難(かた)きを
中原(ちゅうげん)を北望(ほくぼう)して 気(き)は山(やま)の如(ごと)し
楼船(ろうせん) 夜雪(やせつ) 瓜洲(かす)の渡(わたし)
鉄馬(てつば) 秋風(しゅうふう) 大散関(だいさんかん)
塞上(さいじょう)の長城(ちょうじょう) 空(むな)しく自(みずか)ら許(ゆる)せしも
鏡中(きょうちゅう)の衰鬢(すいびん) 已(すで)に先(ま)ず斑(まだら)なり
出師(すいし)の一表(いっぴょう) 真(まさ)に世(よ)に名(な)あり
千載(せんざい) 誰(たれ)か伯仲(はくちゅう)の間(かん)に堪(た)えたる

語句

■早歳 若い頃。 ■那知 どうして知ろうか。知らない。 ■中原北望 中原のある北の方を望んで。中原は黄河下流域。当時は金の領土となっていた。 ■楼船 楼がある船。いくさ船。 ■瓜洲渡 瓜洲京口(現・鎮江)の対岸。江蘇省の南方。長江をへだてて揚州の南。南京の東。 ■鉄馬 武装した馬。軍馬。 ■大散関 陝西省の地名。南宋と金の国境。戦闘が行われた。 ■塞上長城 辺境にある万里の長城。ここでは自ら異民族への守りとなろうという心意気をしめす。 ■衰鬢 薄くなった鬢。 ■斑 白髪まじりであること。 ■出師一表 蜀の諸葛亮孔明が北伐に際して皇帝劉禅に奏上した「出師表」。 ■名世 世間に名を上げる。 ■千載 長い年月。 ■誰堪 誰が耐えうるであろうか。比肩しうるであろうか。 ■伯仲 兄弟。

現代語訳

若い頃は世の中に困難があろうなど、考えもしなかった。
ひたすら北方の中原を望んで、気は山のように盛んだった。

雪の夜、兵船で敵方につっこみ、瓜洲の渡で敵を撃退したこともあった。
また秋風の吹くころ、鉄甲の騎馬隊で大散関を奪回したこともあった。

辺境における万里の長城と自らを称していた私だが、
それも今は空しく、鏡の中の姿は老い衰え、すでに鬢髪には白いものが混じっている。

かの諸葛亮孔明が書いた「出師の表」は、まことに稀代の名文であった。
それから千年たっているが、孔明に匹敵するような人物がいただろうか。

解説

中国北方にある女真族の国、金王朝は宋にとって脅威となる存在でした。

陸游は父祖伝来の愛国思想の影響もあり、金に対しての強硬な主戦論を唱えました。そのため講和派に疎まれ、何度も左遷されています。

この詩にあるように、実際の戦闘にも参加しました。

諸葛孔明のような忠臣があらわれてほしい、そして憎き金をやっつけてほしい。強くそれを望んでいる詩ですが、とうとう陸游は生存中に金の滅亡(1234)を見ることはありませんでした。

しかも金を滅亡させたモンゴル軍によって、南宋そのものも滅ぼされてしまいます(1279)。

陸游の詩には、この「憤りを書す」のような愛国詩のほか、「山西の村に遊ぶ」のようなのんびりした田園生活を描いたものがあります。

朗読:左大臣光永

■【中国語つき】漢詩の朗読を聴く
■【古典・歴史】メールマガジン
【古典・歴史】YOUTUBEチャンネル