よくわかる漢詩の知識(四)平仄のルール
本日は「よくわかる漢詩の知識(四)平仄のルール」です。
前回のまとめ
まずは前回のまとめです。前回は「平仄とは何ぞや?」という話をしました。
・漢字のリズム(声調)を四つに分けたものを「四声」という。
・現代中国語の「四声」と漢詩の「四声」はまったく別物である。
・「四声」は平声・上声・去声・入声から成る。
・そのうち、平声を「平」とする。上声・去声・入声を「仄」とする。
・漢詩はこれら「平」「仄」の組み合わせによってリズムが生まれる。
過去配信分
第一回「絶句」
http://kanshi.roudokus.com/KanshiSemi01.html
第二回「律詩」
http://kanshi.roudokus.com/KanshiSemi02.html
第三回「平仄」
http://kanshi.roudokus.com/KanshiSemi03.html
平仄のルール
今回は漢詩における平仄のルールについて、具体例を挙げて解説していきます。
七言絶句の場合、平仄に関して次の決まりがあります。
・二四不同(にしふどう)、二六対(にろくつい)
・下三連(かさんれん)を禁ず
・四字目の孤平(こひょう)を禁ず
・起句と承句は反法、承句と転句は粘法、転句と結句は反法
難しい言葉ばかりで「ゲエッ」となりますね。
でも法則を知ってしまえば難しいものではないです。
有名な杜牧の七言絶句「清明」を例に、解説していきます。ちなみに例として七言絶句を挙げるのは意味があります。
それは七言絶句でまず平仄のルールを理解しておけば、五言絶句はその簡易版ですし、律詩は拡張版ですから、後々応用がきくからです。
清明 杜牧
清明時節雨紛紛
路上行人欲断魂
借問酒家何処有
牧童遥指杏花村清明の時節 雨 紛々
路上の行人 魂を断たんと欲す
借問す 酒家は何処に有る
牧童 遥かに指す 杏花村
起句。
清明時節雨紛紛。
清明の時節は二十四節気の一つで、現在の暦でいうと四月五日か六日。一年でもっともあったかい日とされます。「雨紛紛」は雨が降りしきっているさま。本来暖かでポカポカしている時期なのに、雨がじとじと降っているんです。
承句。
路上行人欲断魂。
道を行く人。作者のことでしょう。「欲断魂」心が消え入りそうになっている。それは、本来暖かでポカポカしている時期なのに、雨がじとじと降っているからです。ウンザリしてるんです。
転句。
借問酒家何処有。
「借問」私は尋ねる。「酒家何処有」居酒屋はどこにあるかね。今まで季節や天候の話をしていたのに、いきなり誰かに話しかける展開になりました。このように、起承転結の「転句」では、これまでの流れをガラッと変えます。
そして結句です。
牧童遥指杏花村
「牧童」牛飼の少年が、遥かに指さした。「杏花村」杏の花咲く村を。
つまり、暦の上ではポカポカする時期なのに雨がふり続けて、旅人とおぼしき主人公はウンザリしている。そこで、居酒屋はどこだいと聞くと、聞かれた牛飼の少年が、あっちだよと杏の花咲く村を指さした。
それだけの詩ですが、牛飼の少年がひょいっと指さす動作がいかにも浮世離れして、雰囲気のある詩です。
この詩を例に、平仄のルールを見て行きます。
まず、「平」を○、「仄」を●として書くと、図のようになります。◎は韻を踏んでいる所です。韻については後日説明します。
二四不同・二六対
二四不同とは、それぞれの句の、二文字目と四文字目は平仄を逆にする、というルールです。そして「二六対」とは、二文字目と六文字目の平仄を同じにする、というルールです。一句一句平仄を確認していきましょう。図をご覧ください。
二文字目の「明」が○、四文字目の「節」が●で平仄が逆。
二文字目の「明」が○、六文字目の「紛」が○で平仄が同じ。
二文字目の「上」が●、四文字目の「人」が○で平仄が逆。
二文字目の「上」が●、六文字目の「断」が●で平仄が同じ。
二文字目の「問」が●、四文字目の「○」が○で平仄が逆。
二文字目の「問」が●、六文字目の「処」が●で平仄が同じ。
二文字目の「童」が○、四文字目の「指」が●で平仄が逆。
二文字目の「童」が○、六文字目の「花」が○で平仄が同じ。
見事、ルールに従って詩が作られていますね。
下三連(かさんれん)を禁ず
下の三文字。すなわち五文字目・六文字目・七文字目が同じ平仄になってはならないというルールです。つまり、●●●とか○○○はいけないよ、という話です。杜牧の詩で見てみましょう。
たしかに、下三連が避けられています。単調になるのを避けるためのルールと思われます。
四文字目の孤平(こひょう)を禁ず
●○●のように仄にはさまれて一つの平が孤立している状態を孤平といいます。七言絶句では孤平を四文字目に持ってくることを禁じています。杜牧の詩を見ると、
承句と転句で四文字目に「○」が来ていますが、「●」には挟まれてませんね。すなわち「孤平を避ける」というルールがきちんと守られています。
一三五不論
今まで見てきたように、平仄において大事なのは二文字目・四文字目・六文字目です。また七文字目は起句・承句・結句では「韻」を押さないといけません。
つまり、注意すべきは二文字目・四文字目・六文字目・七文字目であって、残る一文字目・三文字目・五文字目はわりと自由ということになります。この法則を「一三五不論(いちさんごふろん)」といいます。
起句と承句は反法、承句と転句は粘法、転句と結句は反法
さて今までは一句の中におけるルールでしたが、次のルールは句と句の間のルールです。すなわち、句同士の横のつながりのことです。
・起句と承句は反法
起句と承句の二文字目・四文字目・六文字目は平仄を逆にする。これを「反法」といいます。杜牧の詩で見ると、
二文字目・四文字目・六文字目がオセロの白黒のように反転しているのがわかります。これが「反法」です。
そして
・承句と転句は粘法
今度は承句と転句です。二文字目・四文字目・六文字目は平仄を同じにします。図で確認してください。●=●、○=○と平仄が同じになってますね。このように平仄を同じにすることを「粘法」といいます。承句と転句は粘法にします。
さらに
・転句と結句は反法
です。転句と結句における二文字目・四文字目・六文字目は平仄を逆にします。すなわち「反法」です。
このように、
・起句と承句は反法
・承句と転句は粘法
・転句と結句は反法
という厳密なルールがあります。言葉で言うと難しいですが、こういうのは図で覚えておくといいです。
最後に七言絶句における平仄のルールをもう一度まとめます。
・二四不同(にしふどう)、二六対(にろくつい)
・下三連(かさんれん)を禁ず
・四字目の孤平(こひょう)を禁ず
・起句と承句は反法、承句と転句は粘法、転句と結句は反法
こういう理屈を一応知った上で漢詩を読むと、いっそう味わいも増すと思います。
つづき「押韻、「韻を踏む」とは?」