律詩とは?

昨日から三回にわたって「よくわかる漢詩の知識」をお届けします。

第一回 絶句とは?
第二回 律詩とは?
第三回 押韻とは?

初歩の初歩、漢詩の出発点たる知識だけをまとめたものです。

本日は第二回「律詩とは?」です。

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律詩とは?

律詩とは、八句(八行)からなる詩の形で、
一句が五言(五文字)からなるものを五言律詩、
一句が七言(七文字)からなるものを七言律詩といいます。

五言律詩と七言律詩

六朝時代の斉・梁のころに起こり、はじめは
二十四句や二十句、十二句と長かったものが、
無駄な表現をはぶき、洗練されていくうちに
短くなり、七世紀の末に八句に固定されました。

律詩で有名なのは杜甫の「春望」でしょう。

杜甫「春望」

春望 杜甫

国破れて山河在り
城春にして草木深し
時に感じては花にも涙を濺ぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火三月に連なり
家書萬金に抵る
白頭掻かけば更に短く
渾べて簪に勝えざらんと欲す

(意味)
国都長安は破壊され、ただ山と河ばかりになってしまった。
街には春が来て草木がぼうぼうと生い茂っている。

この乱れた時代を思うと花を見ても涙が出てくる。
家族と別れた悲しみに、鳥の声を聞いても心が痛む。

戦乱は三月に入っても続き、家族からの頼りは
滅多に届かないため万金に値するほど尊く思える。

白髪頭をかくと心労のため髪が短くなっており、
冠をとめるカンザシが結べないほどだ。

杜甫「春望」の詳しい解説はこちら

律詩は二句一組を「(れん)」といい、
全四聯より構成されます。

杜甫「春望」

第一句・第二句を首聯(しゅれん)、
第三句・第四句を顎聯(がんれん)、
第五句・第六句を頸聯(けいれん)、
第七句・第八句を尾聯(びれん)

といいます。

頭・顎(あご)・頸(くび)、尾っぽ。
体の部分になぞらえているわけです。

このうち、顎聯と頸聯は必ず対句にしないといけないという
規則があります。

また、偶数句の末尾を押韻にします。

杜甫「春望」

まず三句目と四句目、つまり顎聯について見てみましょう。

感時花濺涙
恨別鳥驚心

杜甫「春望」

深く考えずとも、この二句を口に出して読んでみると、なんとなくセットになっている感じがするでしょう。

対句とはこのように、文法的に同じ働きをする文字を、同じ順番で並べた二句のことをいいます。

ここでは動詞の「感」「恨」、名詞の「時」「別」、名詞の「花」「鳥」、動詞の「濺」「驚」、名詞の「涙」「心」がそれぞれ対応して、対句をなしています。

次の頸聯についても、

烽火連三月
家書抵萬金

杜甫「春望」

名詞の「烽火」と「家書」、動詞の「連」と「抵」、名詞の「三月」と「萬金」がそれぞれ対応し、対句をなしていますね。

そして押韻についても見てください。

杜甫「春望」

律詩では偶数句の末尾に押韻します。

深(sin)、心(sin)、金(kin)、簪(sin)で韻を踏んでいますね。

この「押韻」「韻を踏む」ということについては、次回もう少しつっこんで解説します。

こうして見ると杜甫がしっかりと律詩の規則を守って
詩を作っていることがわかりますね。

対句を中心とした形の美しさ。均整美。
これが律詩を鑑賞する時の一番のポイントです。
中でも杜甫は律詩の均整美を極限まで追求し、
完成させた人物です。

全対格(ぜんついかく)とは

律詩は顎聯と頸聯を対句にするという決まりがありますが、
さらに他の二聯まで対句にしても、構いません。

すると、四聯すべてが対句になります。、
このように四聯すべてを対句にした律詩を特に、
全対格(ぜんついかく)とよびます。

「全対格」の有名な例としては
杜甫が晩年の孤独を詠んだ「登高」があります。

内容も素晴らしいのですが、対句に注意して
読む時、その完成度に驚かされます。

杜甫「登高」

登高 杜甫
風急に天高くして 猿嘯哀し
渚清く 沙白くして 鳥飛び廻る
無辺の落木 蕭蕭として下り
不尽の長江 滾滾(こんこん)として来る
万里悲秋 常に客となり
百年多病 独り台に登る
艱難 苦(はなは)だ恨む 繁霜の鬢
潦倒(ろうとう) 新たに停む 濁酒の杯

(意味)
風は激しく吹き、天は抜けるように高く、猿の声が悲しげに響く。
渚は清らかで 砂は白く 鳥が飛び廻っている。

落ち葉は際限もなく悲しげに散り落ち
尽きることのない長江の流れはこんこんと迫ってくる。

故郷を去って万里、毎年秋を悲しい旅人の身で迎える。
体は長年、病を患っている。そんな身で独り、台に登るのだ。

長年の苦労で、恨めしいことに鬢の毛はすっかり白くなってしまった。
落ちぶれ果てたこの身に追い討ちをかけるように、
好きだった酒さえ 禁じられてしまった。

杜甫「登高」の詳しい解説はこちら

では二句ごとに…つまり聯ごとに区切ってみます。

杜甫「登高」

すべての聯が対句になっているのがわかります。
そう深く考えずとも、声に出したとき、
独特の気持ちよさがあると思います。その正体は、
対句の積み重ねから来る、リズムの良さなのです。

このように杜甫の律詩はさながら精巧な建築物のように
言葉に工夫がこらされ、練りに練り込まれています。

まとめます。

杜甫「春望」

■律詩とは、八句(八行)からなる詩の形である。
■一句が五言(五文字)からなる律詩を五言律詩、一句が七言(七文字)からなる律詩を七言律詩という。
■律詩は二句一組を「聯(れん)」といい、全四聯より構成される。
■第一句・第二句を首聯(しゅれん)、第三句・第四句を顎聯(がんれん)、第五句・第六句を頸聯(けいれん)、第七句・第八句を尾聯(びれん)という。
■顎聯と頸聯は対句にする。
■偶数句の末尾に押韻する。
■四聯すべてが対句の律詩を全対格という。

つづき「平仄とは?