春望 杜甫(しょんぼう とほ)

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国破山河在
城春草木深
感時花濺涙
恨別鳥驚心
烽火連三月
家書抵萬金
白頭掻更短
渾欲不勝簪

国破れて山河在り
城春にして草木深し
時に感じては花にも涙を濺ぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火三月に連なり
家書萬金に抵る
白頭掻かけば更に短く
渾べて簪に勝えざらんと欲す

現代語訳

国都長安は破壊され、ただ山と河ばかりになってしまった。
春が来て城郭の内には草木がぼうぼうと生い茂っている。

この乱れた時代を思うと花を見ても涙が出てくる。
家族と別れた悲しみに、鳥の声を聞いても心が痛む。

戦乱は三月に入っても続き、家族からの頼りは
滅多に届かないため万金に値するほど尊く思える。

白髪頭をかくと心労のため髪が短くなっており、
冠をとめるカンザシが結べないほどだ。

解説

杜甫は44歳の時、ようやく下級ながら官職にありつきます。
右衛率府冑曹参軍。長安在住の近衛軍の武具を管理する役職でした。

しかし安心したのもつかの間でした。

755年、節度使の安禄山が唐王朝に反旗を翻します(安史の乱)。
副都洛陽に続き首都長安まであっさりと落とされます。
玄宗皇帝はさっさと長安を逃げ出しました。

杜甫は賊軍に捕らえらてしまいます。
時に756年。杜甫45歳。

捕虜生活のさなか、ある日杜甫は
長安近郊の丘に登り、長安の町を見下ろします。

そこには荒れ果てた国都長安の姿がありました。
どんなにかショックを受けたでしょう。
「春望」はその思いを詩にしたものです。

「春望」は「春の日の眺め」。
「国破」ここでいう「国」は、国都長安。

「城春」ここでいう「城」は、
日本の「名城」とか言うときの城でなく、
城壁に囲まれた長安の町のこと。

「感時」この乱れた時代(時)のことを思うと
「恨別」家族と別れた悲しみを思うと

「花濺涙」「鳥驚心」本来楽しいはずの春の花、
鳥の鳴き声、そういう春の風物を見てすら、
悲しみがこみ上げるのです。

「烽火連三月」戦乱が三ヶ月も続き
「烽火」はのろし火。戦乱の象徴です。

「家書抵萬金」「家書」は家族からの便り。
それが万金に値するほど、いとおしい。

「白頭掻更短」白髪頭を掻くと、苦労が重なったため
さらに短くなっている。

「渾」は「まったく、すっかり」強調。
「簪」はかんざし。

「勝」は「止める」。ここでは「不勝簪」だから
「かんざしを頭に止められない」。
「欲」は「そういう状態になりつつある」

だから結句「渾欲不勝簪」は全体で
「かんざしを頭に止められないくらい、
(髪の毛が短くなりつつある)」
…となります。

松尾芭蕉の『奥の細道』「平泉」の章で「国敗れて山河あり城春にして草青みたり」と引用されています。杜甫の「春望」と湖伯雨「望准」の「白骨城辺草自ら青し」をあわせているとも、芭蕉の単なる記憶違いとも言われます。こちらで朗読しています。

朗読:左大臣

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