清明 杜牧(せいめい とぼく)

淸明時節雨紛紛
路上行人欲斷魂
借問酒家何處有
牧童遙指杏花村

清明の時節 雨 紛々
路上の行人 魂を断たんと欲す
借問す 酒家は何処に有る
牧童 遥かに指す 杏花村

現代語訳

時は清明の時節というのに春雨がしとしと降りしきっている。
その中を歩いていると、侘びしさに心が折れそうになる。

私は尋ねる。
「ちょっと君、居酒屋はどこだい」

牛飼いの少年は、はるか先の杏の花咲く村を指差した。

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解説

江南春絶句」「山行」と並んで、杜牧のよく知られた詩です。

「それだけかよ!」と言ってしまえばそれまでですが、なんかこの、ドラマの始まりのような。映画のファーストシーンのような、いい雰囲気じゃないですか。

【清明の時節】は二十四節気(一年を二十四に区分して、それぞれに名前をつけたもの)の一つ。現在の暦でいうと四月五日か六日。一年でもっともあったかい日とされており、郊外に散歩に出かけたり(「踏青」)墓参りをする習慣があります。

そんな日にです、本来ぽかぽかしてるはずの清明の時節に。実際は雨が降っている。ますます心が折れそうなるのです。

そこで牧童に酒場をきくと「あっちだよ」とひょいと指差した先には杏の村が。なんかイキな動作ですよ。小僧のくせに動作がしゃれてます。

いや、むしろそこにイキを感じ取った杜朴の感性こそがイキというべきか…。

【雨紛紛】 雨が降りしきっているさま。 【行人】 旅人。
【欲斷魂】 心が折れそうになる。
「欲」は「…という状態になろうとする」

【借問】 たずねる。 【酒家】 居酒屋。
【牧童】 牛飼いの少年。 【杏花村】杏の花の咲く村。

正岡子規「夏目漱石の伊予に之くを送る」に、清明節への言及があります。「清明に再会を期す」。

松尾芭蕉「奥の細道」に、杜牧の「清明」に似た風情の場面があります。

那須野を横切る芭蕉と曾良は、地元の農夫に道を尋ねます。

すると農夫は「ただでさえ入り組んだ道なのに、不案内な方ならなおさら大変でしょう」と、馬を貸してくれるのです。

馬に乗って人里に出た芭蕉と曾良は、馬の鞍にお礼の金子をくくりつけて馬を返します。古き良き、日本人の人の良さが出てる章です。こちらで朗読しています。

朗読:左大臣