春暁 孟浩然(しゅんぎょう もうこうねん)
春暁 孟浩然
春眠不覚暁
処処聞啼鳥
夜来風雨声
花落知多少春暁《しゅんぎょう》 孟浩然《もうこうねん》
春眠《しゅんみん》暁《あかつき》を覚《おぼ》えず、
処処《しょしょ》に啼鳥《ていちょう》を聞く。
夜来《やらい》風雨《ふうう》の声《こえ》、
花落つること知《し》んぬ多少《たしょう》ぞ。
現代語訳
春の夜の眠りは心地よく、朝が来たのにも気づかなかった。
あちらでもこちらでも鳥が啼くのが聞こえる。
昨夜は一晩中、雨まじりの風が吹いていたが、
花はどれくらい散ってしまっただろうか。
解説
布団の中で花の散る心配をしているんです。
なんと世捨て人精神にあふれた詩でしょうか!
きっとこの人は「ああ昨日のうちに花見をしておけばよかった。
昨夜の雨でだいぶ散っちゃったかなあ」なんて考えつつ、
ぜったい仕事になんか行かずに昼過ぎまで寝てると思います。
毎日会社に行って、バリバリ仕事して、立派な社会人である。
そういう人間からは、なかなか出ない詩だと思います。
作者猛浩然は、40歳すぎて初めて任官活動 を
するも、科挙に合格せず、一生をぶらぶら過ごした人物です。
おそらくこの詩には、朝早くから役所に出勤して
あくせく働いて、ごくろうさん、という
半分世捨て人。半分ひがみ感覚が入っているのでは
ないでしょうか。
私はこの孟浩然「春暁」を思うとき、
教科書の香りを思い出しますね。
井伏鱒二の訳が有名です。
ハルノネザメノウツツデ聞ケバ
トリノナクネデ目ガサメマシタ
ヨルノアラシニ雨マジリ
散ッタ木ノ花イカホドバカリ
(井伏鱒二著「厄除け詩集」より)
作者 孟浩然
孟浩然(689-740)盛唐時代の代表的詩人。
字は浩然。襄州襄陽(湖北省襄陽市)の人。
青年時代は故郷の鹿門山に隠棲していました。
40歳ごろ長安に出て科挙を受験するも落第。郷里に戻ります。
一時張九齢の招きで任官するも、すぐに官職を辞します。
その後は江南地方を放浪して一生を終えました。
就職の面接を飲み会のために
すっぽかして任官の話をダメにしたり、
玄宗皇帝の前で不平不満を詩に詠んで呆れられ、
任官をフイにしたなど、ダメ人間ぶりを伝える逸話が
多いです。
背中にできものができて苦しんでいたところ、
友人の王昌齢が訪ねてきて喜んで飲み食いしているうちに、
容態が悪化して死んだといわれます。
生涯、出世には縁が無かったものの、
その詩才は高く評価されています。
王維・李白・張九齢らと交流がありました。
特に自然を歌った詩に名作が多いです。
王維と並んで「王孟」と並び称され、
また、中唐の韋応物、柳宗元と並び
「王孟韋柳(おうもういりゅう)」とも称されます。
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