酌酒與裴迪(酒を酌んで裴迪に与う) 王維
酌酒與裴迪 王維
酌酒與君君自寬
人情翻覆似波瀾
白首相知猶按劍
朱門先達笑彈冠
草色全經細雨濕
花枝欲動春風寒
世事浮雲何足問
不如高臥且加餐酒を酌んで裴迪(はいてき)に與(あと)う 王維
酒を酌んで君に与う 君自ら寬(ゆる)うせよ
人情の翻覆(はんぷく)は波瀾(はらん)に似たり
白首(はくしゅ)の相知(そうち)も猶(な)お剣を按(あん)じ
朱門(しゅもん)の先達(せんだつ)は弾冠(だんかん)を笑(わろ)う
草色は全(まった)く細雨(さいう)を経て湿(うるお)い
花枝(かし)は動かんと欲するも春風(しゅんぷう)寒し
世事(せじ)は浮雲(ふうん) 何ぞ問うに足らん
如かず 高臥(こうが)して且(しば)らく餐(さん)を加えんには
酒を酌んで君に与える。君よ、ゆったりしてくれたまえ。
人間の感情がくるくる変わるのは、まるで打ち寄せる波のようなもの。
白髪頭の昔なじみ同士でも、剣を構えて争うことがあるし、
家柄がよく先に出世した者は、うだつが上がらず人が引き立ててくれるのを待っている者を冷笑している。
つまらない雑草はすっかり雨にうるおっているのに、
すぐれた花の枝は、つぼみが開こうとしているのに、そこに吹き付ける春風は冷たい。
世間の事は浮雲のようなもの。論ずるに足らん。
俗世間から離れて、しばらくよく飯を食って、自愛することだ。
■裴迪 王維の無二の親友だが、経歴はほとんど伝わっていない。字も不明。 ■翻覆 ひっくり返ること。 ■白首 白髪頭。 ■相知 昔なじみ。 ■按劍 剣を構えて相手に斬りかかる動作を取ること。 ■朱門 朱塗りの門。身分家柄が高いこと。 ■先達 先に出世した者。 ■弾冠 冠を払うこと。人が就職昇進の世話をしてくれることを期待すること。漢の貢禹(こうう)が、友人王吉(おうきつ)が大出世したので、自分を引き立ててくれることを期待して、冠の塵を払っていた故事に基づく。 ■高臥 俗世間から離れて隠居すること。 ■加餐 飯をたくさん食べる=体に気をつける。
王維の友人の裴迪(はいてき)が出世できずに鬱々としていた頃、王維がそれを励まして作った詩。裴迪は王維の別荘「輞川別業(もうせんべつぎょう)」のそばに住み、王維と裴迪はともに酒を飲んだり詩を作ったりした。
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