太田道灌 蓑を借るの図に題す 作者不詳

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題太田道灌借蓑図
孤鞍衝雨叩茅茨
少女爲遺花一枝
少女不言花不語
英雄心緒亂如絲

太田道灌(おおた どうかん) 蓑(みの)を借(か)るの図(ず)に題(だい)す
孤鞍(こあん)雨(あめ)を衝(つ)いて茅茨(ぼうし)を叩(たた)く
少女(しょうじょ)爲(ため)に遺(おく)る花一枝(はないっし)
少女(しょうじょ)は言(い)わず花(はな)語(かた)らず
英雄(えいゆう)の心緒(しんしょ)亂(みだ)れて絲(いと)の如(ごと)し

現代語訳

たった一人馬に乗ってにわか雨の中を進んでいくと
茅葺屋根の小屋があったので、門を叩いた。

出てきた少女は蓑は貸してくれず、花を一枝差し出した。
少女は何も言わない。花は何も語らない。
英雄の心のうちは糸のように乱れた。

語句

■孤鞍 たった一つの鞍。転じて一人馬に乗って行く人。 ■茅茨 茅葺の小屋 ■花一枝 山吹の花の一枝 ■英雄 道灌のこと。 ■緒亂 心の内。

解説

有名な太田道灌の「山吹の里」の伝説にちなんだ詩です
。太田道灌は江戸城を築いた人物で、
政治家としても築城家としても、武人としても知られています。

道灌が若い頃、鷹狩に行く途中で、にわか雨に打たれてしまいました。

「まいったなあ。このあたりに雨宿りできる家はなし…むむ」

見ると、みすぼらしいあばら家がありました。

「もし、すみませんが、蓑を貸していただけないでしょうか」

スーーと戸が開いて、中から顔を出したのは美しい少女でした。
少女は道灌の顔を見ると、いったん中に戻り、
ふたたび顔を出し、すっと何か差し出します。

「ん…?」

それは一房の山吹の花でした。

「はて…これはいったい。私は蓑を借りたいんですが。
花なんて借りても、仕方ないですよ。蓑は無いんですか」

少女はガッカリした様子で、カタンと戸を閉じてしまいました。

城に戻った太田道灌は、部下にこのことを話します。

「何だったのだあれは。
蓑を借りたいというのに、山吹を差し出すとは…
サッパリ意味がわからん」

「ははあ…風流な少女ですなあ。御屋形さま、
これは一本取られましたよ。『後拾遺集』に
兼明親王(かねあきらしんのう)の歌がございます。

七重八重花は咲けども
山吹の実のひとつだに無きぞ悲しき

少女はこの歌を踏まえて、「蓑」と「実の」を掛けて、
残念ながら蓑はありません。と言ったのですよ」

「七重八重花は咲けども
山吹の実のひとつだに無きぞ悲しき …

ほうほう、なるほど。そういう風流か。
や、これはわしが勉強不足であった。
なかなか奥が深いのう和歌というものは」

以後、太田道灌は歌の勉強に励んだという「山吹の里」の話です。

都営荒川線の終点、早稲田から一つ目の駅面影橋に
「山吹の里」の碑が立っています。
近くには、悲しい於戸姫伝説の残る面影橋があります。

変わりぬる姿見よとや行く水に
          うつす鏡の影に恨し

という歌にまつわる、悲しい伝説が残っています。

次の漢詩「半夜 良寛

朗読:左大臣光永

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