羌村 杜甫

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羌村 杜甫
崢嶸赤雲西
日脚下平地
柴門鳥雀噪
帰客千里至
妻孥怪我在
驚定還拭涙
世乱遭飄蕩
生還偶然遂
隣人満牆頭
感歎亦歔欷
夜闌更秉燭
相対如夢寐

羌村 杜甫
崢嶸(そうこう)たる赤雲(せきうん)の西
日脚(にっきゃく) 平地に下る
柴門(さいもん) 鳥雀(ちょうじゃく)噪(さわ)ぎ
帰客(きかく) 千里より至る
妻孥(さいど)は我(われ)の在るを怪しみ
驚き定まりて還(ま)た涙を拭(ぬぐ)う
世乱れて飄蕩(ひょうとう)に遭(あ)い
生還 偶然に遂ぐ
隣人 牆頭(しょうとう)に満ち
感歎(かんたん)して亦(ま)た歔欷(きょき)す
夜(よる)闌(たけなわ)にして更に燭(しょく1)を秉(と)り
相対(あいたい)すれば夢寐(むび)の如し

現代語訳

高くそびえる夕焼雲の西から、
陽の光が平地に下ってきた。

わが家の柴の門には雀などの鳥がさわぎ、
はるか遠くから旅人は帰ってきた。

妻と子は私が生きているのを不思議がり
ひと騒ぎした後は落ち着いて涙をぬぐう。

世が乱れて私は漂泊の旅をすることになり、
生きて帰ってこれたのは偶然というべきだ。

隣人たちは土塀のほとりにあふれ
感じ入って、またすすり泣く。

夜が更けてくると更に蝋燭をつけかえ
妻と向かい合っていると、まるで夢を見ているようだ。

語句

■崢嶸 高くそびえているさま。 ■赤雲 夕焼雲。 ■日脚 陽の光。 ■柴門 柴の門。侘しく貧しい感じをこめる。 ■帰客 帰ってきた旅人。 ■妻孥 妻と子。 ■飄蕩 漂泊すること。 ■牆頭 土塀のほとり。 ■歔欷 すすり泣く。 ■夜闌 夜が更ける。 ■燭秉 蝋燭をつけかえる。 ■夢寐 夢。

解説

至徳2年(757年)杜甫47歳の作。安史の乱の最中、杜甫は反乱軍の捕虜となっていたのを自力で脱走し、皇帝粛宗の行在所に駆けつけます。国家の危機に対し皇帝をお助けしようとしたのです。

その忠節に報いる形で、杜甫は粛宗より左拾遺の官を授けられます。杜甫にとって長い不遇時代が終わり、ようやく光が差したかに見えました。しかし、左遷された宰相房カン【王+官】を弁護したために杜甫は粛宗の怒りを買い、左遷されてしまいます。その前後に、家族のいる羌村(陝西省フ県)に戻ってきた時の作です。三首連作のうち第一首です。

赤くそびえる夕陽、再会を驚き、そして涙する家族の表情の変化。なんだなんだおっ、子美のやつが帰ってきたのかと集まってくる隣人たち。そして灯のもとでの妻との語らい。一場面一場面が映画のようにあざやかに浮かんできます。杜甫の人間愛が伝わり微笑ましい詩です。

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