江村 杜甫

本日は杜甫の詩「江村」を読みます。杜甫の温かい観察眼の光る詩です。

江村 杜甫
清江一曲抱村流
長夏江村事事幽
自去自來梁上燕
相親相近水中鴎
老妻畫紙為棋局
稚子敲針作釣鉤
多病所須惟藥物
微躯此外更何求

江村 杜甫
清江(せいこう)一曲(いっきょく)村を抱(いだ)いて流れ
長夏(ちょうか)江村(こうそん)事事(じじ)に幽(かす)かなり
自(おのずか)ら去り自ら来(きた)る梁上(りょうじょう)の燕
相親しみ相近づく水中の鴎
老妻(ろうさい)は紙に描いて棋局(ききょく)を為(つく)り
稚子(ちし)は針を敲(たた)いて釣鉤(ちょうこう)を作る
多病須(ま)つ所は惟(た)だ薬物
微躯(びく)此(こ)の外に更に何をか求めん

現代語訳
清らかな流れが一曲りして村を抱き込むように流れていく。
長い夏には川沿いの村はあらゆる物がのんびりしている。

自由に出入りする梁の上の燕。
なれ親しんで近づいてくる水中の鴎。

老いた妻は紙に描いて碁盤を作り、
おさな子は針を叩いて釣り針を作る。

病気がちの私の身に必要なのはただ薬だけだ。
取るに足らないこの身に、他に何を求めよう。

語句
■一曲 ひとまがり。 ■江村 川のほとりの村。 ■幽 落ち着いている。 ■自去自来 自由に出入りする。 ■相親相近 私に慣れ親しんで近づいてくる。 ■老妻 杜甫の年老いた妻。 ■棋局 碁盤。 ■稚子 おさな子。 ■釣鉤 釣り針。 ■須 必要とする。 ■微躯 取るに足らない身。

解説

上元元年(760年)杜甫49歳の作。杜甫は戦乱と飢餓を避けて各地を渡り歩いた末、成都郊外浣花渓ほとりに庵を結んで、落ち着きました。長い杜甫の放浪生活の中ではもっとも落ち着いた時期です。

家族ともども、のんびりしたつかの間のひと時を楽しんでいる様が伝わってきますね。梁の燕、水中の鴎。そして次の二句がとても印象深いです。

杜甫の奥さんが紙に碁盤を書いているのです。あなた、一局打ちましょう。お、そうか。今日は負けんぞなんて、夫婦の会話も聞こえてきそうじゃないですか。おさな子は針を叩いて釣り針を作っている。これものんびりした感じです。

ああ幸せだなあ。こんな毎日が続けばいいのに…。杜甫の温かさ、人間愛がしみじみ伝わってくる詩です。

しかし残念なことにこの幸せも長くは続きませんでした。杜甫の庇護者である友人の厳武が朝廷に呼び戻されたことにより、杜甫は成都にいられなくなり、ふたたび放浪の旅へと駆り出されます。

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