新井白石「即事」

本日は漢詩の朗読です。新井白石の「即事」。朝、公務に向かう前の、ホッと一息つくひとときを歌ったものです。掛け軸に書かれることが多い詩です。

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即事 新井白石
青山初已曙
鳥雀出林鳴
稚竹煙中上
孤花露下明
煎茶雲繞榻
梳髪雪垂纓
偶坐無公事
東窓待日生

即事(そくじ) 新井白石(あらいはくせき)
青山(せいざん)初(はじ)めて已(すで)に曙(あ)くれば
鳥雀(ちょうじゃく)林(はやし)を出(い)でて鳴く
稚竹(ちちく)は煙中(えんちゅう)に上(のぼ)り
孤花(こか)は露下(ろか)に明(あき)らかなり
茶を煎(に)れば雲は榻(とう)を繞(めぐ)り
髪を梳(くしけず)れば雪は纓(えい)に垂(た)る
偶坐(ぐうざ)して公事(こうじ)無し
東窓(とうそう)日(ひ)の生(しょう)ずるを待つ

現代語訳

青々した山が明けそめると、
鳥たちが林から出てきて鳴く。
若竹が朝靄の中にすっと立ち、
露をのせた葉の中に花がひとつだけ咲く。
朝の茶を点てると雲のような茶の煙が腰掛けのあたりに漂い、
髪に櫛を入れると冠の紐に雪のような白髪が垂れかかる。
のんびり座っているのは、今日は公務が少ないためだ。
東の窓のところで日が登ってくるのを待つ。

語句

■即事 事に即して、思いつくままに記した詩の意。 ■榻 腰掛け。床几。 ■梳 髪を櫛でとくこと。 ■纓 冠をむすぶ紐。 ■偶坐 のんびり座っていること。

解説

漢詩には隠居生活を歌ったものが多いですが、この詩は現役でありながら、出勤前のほっと一息つく時間を歌っていることに特徴があります。

新井白石。江戸時代の儒者・政治家・歴史学者・詩人。二度の浪人を経て甲府宰相徳川綱豊(五代将軍綱吉の甥)に仕える。後に綱豊が六代将軍家宣となると将軍近習となり、次の七代将軍家継にも仕え「正徳の治」とよばれる改革事業を行った。晩年にその生涯をしるした「折たく柴の記」は名文として知られる。

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