白楽天「岳陽楼に題す」

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題岳陽楼 白楽天

岳陽城下水漫漫
独上危楼凭曲欄
春岸緑時連夢沢
夕波紅処近長安
猿攀樹立啼何苦
雁点湖飛渡亦難
此地唯堪画図障
華堂張与貴人看

岳陽楼(がくようろう)に題(だい)す 白楽天
岳陽城下(がくようじょうか) 水漫漫(みずまんまん)たり
独(ひと)り危楼(きろう)に上(のぼ)りて曲欄(きょくらん)に凭(よ)る
春岸(しゅんがん)緑(みどり)にして時(とき)に夢沢(ぼうたく)に連(つら)なり
夕波(ゆうは) 紅(くれない)なる処(ところ) 長安(ちょうあん)に近(ちか)し
猿(さる)は樹(き)に攀(よ)じて立ち啼(な)くこと何ぞ苦しき
雁(かり)は湖(みずうみ)に点(てん)じて飛び渡ること亦(また)難(かた)し
此地(このち) 唯(た)だ 画図(がと)の障(しょう)となし
華堂(かどう)に張(は)り貴人(きじん)に与えて 看(み)しむるに堪(た)うるのみ

現代語訳

岳陽楼のもと、洞庭湖に水が漫々とたたえている。
独り楼台に登り、曲がりくねった欄干によりかかる。

春の岸辺に緑に色づく若草が続き、そのかなたに雲夢沢(湖の名)がある。
夕暮れの波が紅に染まる。そのあたりは長安にも近そうに思える。

猿は木に登って立ち、その鳴き声は哀しみをかきたてる。
雁は湖の上を点々と飛ぶが、この広い洞庭湖を飛び渡ることは難しかろう

この地の景色は屏風絵にして、豪華な座敷に張り、貴人に与えて見せるのにぴったりだ。

語句

■岳陽樓 洞庭湖東岸に立つ楼台。古くから多くの詩に詠まれる。 ■危楼 高楼。 ■曲欄 曲がった手すり。 ■夢沢 雲夢沢。古代の湖の名。 ■画図障 絵屏風。 ■華堂 豪華な屋敷。

解説

江州(現 江西省一九江)に左遷されていた作者は、新たに忠州(四川省忠県)での任務を受け、長江をさかのぼって赴任先へ向かいました。その途中、岳州(湖南省岳陽)の名勝、岳陽楼に登って詠んだ詩です。

洞庭湖ほとりの岳陽楼は古くからの名勝で、数々の歌に詠まれています。

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朗読:左大臣光永

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