魯郡の東 石門にて杜二甫を送る 李白

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魯郡東石門送杜二甫 李白
酔別復幾日
登臨偏池台
何言石門路
重有金樽開
秋波落泗水
海色明徂徠
飛蓬各自遠
且尽林中盃

魯郡(ろぐん)の東 石門(せきもん)にて杜二甫(とじほ)を送る 李白
酔別(すいべつ)復(ま)た幾日(いくにち)ぞ、
登臨(とうりん)池台(ちだい)に偏(あまね)し。
何ぞ言わん石門(せきもん)の路(みち)、
重ねて金樽(きんそん)の開く有らんと。
秋波(しゅうは)泗水(しすい)に落ち、
海色(かいしょく) 徂徠(そらい)に明らかなり。
飛蓬(ひほう)各自(かくじ)遠し、
且(しばら)く手中(しゅちゅう)の盃(はい)を尽くさん。

曲阜県

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現代語訳

別れを惜しんで酒を酌み交わしているうちに、また何日経っただろう。 ともに山に上り、池のほとりを歩き、いたる所を見てまわった。

もうこの石門の道に立って、ふたたび杯を交わすことも無いだろう。 秋を感じさせる涼しげなさざ波が泗水に立ち、海の青々とした輝きが徂徠山に照り映えている。

私たちは風に吹かれて飛んでいく蓬のように、それぞれ遠い道へ分別れて行く。ひとまずは手中の杯をのみほそう。

語句

■魯郡 山東省曲阜(きょくふ)県(現滋養県)。■石門 山東省曲阜県の東北、泗水の岸にある山。石が向かい合って門のようになっているから石門とよばれたという。 ■杜二甫 杜甫。「二」は杜甫が上から二番目の兄弟であることを指す排行。 ■酔別 別れを惜しんで酒を呑んで酔う。 ■登臨 高い所に立って景色を眺めること。 ■池台 池のほとりや池の中の高台。 ■遍 ひとまわりした。どこもかしこも、まわった。 ■金樽 酒樽 ■秋波 秋の波 ■泗水 山東省を流れる黄河の支流。山東省泗水県に源を発し、江蘇省淮水にそぞく。 ■海色 海の色 ■徂徠 山東省泰安県西南の山。曲阜の東北。 ■飛蓬 風に飛ぶ蓬。旅人のたとえ。 ■手中杯 林中杯となっているものも。

解説

744年、李白は長安の宮廷を追われます。

言い伝えには、宦官高力士に靴を脱がせるなど
酒の上での無礼な行いがあったため、
讒言を受けたということですが、本当のところはわかりません。

ともかく、やっと任官できたのにわずか3年で
長安を追われることになったのは、
ご愁傷様としか言いようがありません。

宮廷を追われた李白は東の都・洛陽に向かいます。
洛陽には運命的な出会いが待っていました。

「あなたが李太白さまですか!
ご高名は常々うかがっておりました」

「いやいやいや、私なんかは、酒癖が悪くて
職場を追い出されちゃって」

時に李白44歳、杜甫33歳。

李白は追放されたといえ宮廷詩人。

一方の杜甫は科挙にうからず浪人生活を続けていました。

杜甫から見れば、まばゆいばかりの人物だったことでしょう。

具体的な状況はわかりませんが、洛陽の酒場で
バッタリ出会ったという話もあります。

または李白が洛陽に来ていることを知った杜甫が
面会を願い出たかもしれません。

「ところで…噂にうかがっております。太白殿は
かなりいける口だとか」

「そういう子美殿は…」

「私も大好きです」

「おお!!」

二人はすぐに、意気投合し、大いに飲み、よっぱらいます。

洛陽の街にこだまする、李白と杜甫の歌声。

のんびりした話ですが、この後李白と杜甫は二年ほど、
山東省一帯を旅行しています。
しかも、どちらも妻子をほったらかしにして。
まあ、ずっと旅をしていたのではなく時々家に戻りながら
小規模な旅を繰り返していたようですが。

各地の名所を見てまわり、行く先々で酒を飲んでは
文学談義、政治談議に花を咲かせ…
そこへ詩人の高適も加わって、楽しい時間が過ぎていきました。

そして二年後。
山東省曲阜県の東北、泗水の岸・石門にて二人は別れます。

「太白殿、お名残惜しいです。せめて今しばらく、
この杯を」
「子美殿こそ、この杯を」

酌み交わす李白と杜甫。

そして李白は南へ向かい、杜甫は長安へ向かい…
以後、二人が出会うことは二度とありませんでした。

別れた後も杜甫は李白に対する敬愛の念を生涯にわたって持ち続けました。杜甫は李白についての詩を15首も残しています。よほど強い印象だったんですね。

対して李白は、あまり杜甫についての詩は四首しか残していません。そのうち確かなのは「沙邱城下(さきゅうじょうか)より杜甫に寄す」とこの「魯郡東石門送杜二甫」の二首だけです。

温度差が感じられますね。まあ李白は漂白の旅人なだけに、あまり過去にはひきずられない考えだったのかも、しれません。

朗読:左大臣