清平調子 其二 李白

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清平調子 其二
一枝紅艷露凝香
雲雨巫山枉断腸
借問漢宮誰得似
可憐飛燕倚新粧

清平調子 其二
一枝(いっし)の紅艷(こうえん)  露(つゆ) 香(かおり)を 凝(こ)らす
雲雨(うんう) 巫山(ふざん)  枉(むな)しく 断腸(だんちょう)
借問(しゃもん)す  漢宮(かんきゅう) 誰(たれ)か 似たるを 得ん
可憐(かれん)の飛燕(ひえん)  新粧(しんしょう)に 倚(よ)る

巫山

現代語訳

一枝のあざやかな紅い牡丹の花が、露にまみれ、香りを漂わせている。
雲となり雨となっても貴方と会いたいと言った巫山の仙女も、
楊貴妃の前では空しく心砕かれるだけでしょう。

お聞きします。漢の後宮の中で、他にこんな美人がいますか。
その可憐さで知られる、前漢の飛燕が新しく化粧を装っている姿。
それこそが楊貴妃と並び立つものでしょう。

語句

■一枝 ひとえだ ■紅艷 あざやかな紅い牡丹の花 ■雲雨 仙女の姿。楚の懐王が夢の中で巫山の仙女と交わった。仙女は、朝には雲に、夕方には雨になって会いたいと言った。 ■巫山 重慶市巫山県と湖北省の境にある名山。楚の懐王が夢の中で巫山の神女と交わった。 ■借問 尋ねる。 ■飛燕 趙飛燕。前漢の成帝の寵愛を受けた。美人の代名詞。しかし後年、王葬に弾劾されて庶民となり、自殺した。 ■枉 いたずらに。むなしく。 ■新粧 化粧を新たに塗りたてて。

解説

「第一」に続けて、楊貴妃の美しさをたたえます。まず牡丹の花の描写からはじめます。
一枝のあざやかな紅い牡丹の花が、露にまみれ、香りを漂わせている。
「一枝」はひとえだ。「紅艷」は、あざやかな紅い牡丹の花です。

「雲雨巫山」は、巫山の仙女の伝説をふまえます。昔、楚の王様が行楽に出かけました。楼台のところまで来た時、ふと見ると美しい女性が衣をひらひらさせて、たたずんでいます。

「なんという美しい娘さんだろう。ぜひお近づきになりたい。
もし、あなたの名は」

「まあ、いきなり名前をおたずねるなんて、強引なお方」
「や、これは失礼。あまりに貴女がお美しかったので」

なんてやり取りをしている内に、すっかり仲良くなります。
夢からさめる間際、女が言います

「私は巫山の仙女です。あなたと、仲良くなりたいと、ずっと思っていたのです。
これからは朝は雲となり、暮には雨となって、毎日あなたとお会いします」

そして目が覚めました。

ここから「朝雲暮雨」「巫山の夢」という故事が生まれ、男女の関係の親密なことを指すようになりました。

しかし、夢の中でしか仙女に会えない楚の王に比べると、玄宗さまは
いつも楊貴妃といっしょにいる。なんという幸いだと、李白は
楚の王と比べて、玄宗の幸いを持ち上げているわけです。

続いて前漢の飛燕を出して楊貴妃を持ち上げます。

趙飛燕は前漢の成帝の寵愛を受けました。庶民の出身ですが、とても美しく踊りがうまかったといいます。
体がとても小さく、人の手の平の上で踊ることができたといいます。

趙飛燕は成帝の後宮にめされて寵愛を受けますが、十数年後、皇帝が崩御すると運が尽きます。後宮を追われ、庶民の身分に落とされ、首をつりました。

最期は悲惨だったわけですが、美人で踊りがうまいということから、李白は趙飛燕を引き合いに出して楊貴妃を持ち上げたわけです。

「ふふ…さすがは李白…」

楊貴妃も教養の高い女性なので、李白のたとえをすぐに理解し、ほくそ笑みます。
誰も彼も感心し、すばらしい詩の出来に息を飲む中、
キラリと意地悪な目を光らせた男がありました。

高力士。玄宗皇帝の側近の宦官です。
以前あることから、李白には恨みを持っていました。

その日も李白は玄宗皇帝と楊貴妃の前に召され、
詩を作らされることになっていました。

ところが李白は酔っ払って千鳥足でした。
船着場まで何とかたどり着いたものの、船に乗るには沓を脱がないといけません。

李白はかたわらに立っていた玄宗皇帝の側近である宦官・高力士の前に
バーンと足をほり出し、「沓をぬがせろ」と命じました。

高力士はしぶしぶ李白の沓を脱がせますが、その時の
屈辱を、後々まで恨みに思っていたのでした。

高力士は、李白の詩の文句に目を留めます。

「趙飛燕…」

後日、高力士は楊貴妃に訴えます。

「趙飛燕は庶民の身分に落とされて自殺した女です。
その飛燕と貴妃さまを並べるなど、不敬のきわみです」
「はっ…そういえば」

こうして楊貴妃は李白を嫌うようになり、楊貴妃にべったりの
玄宗も李白を避けるようになり、ついに宮廷を追われることになったという…
一つの言い伝えです。

朗読:左大臣光永

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