秋風の辞 武帝

漢の武帝の「秋風の辞」。楽しさの絶頂にあって、ふと感じる哀愁…今に通じるテーマです。

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秋風辭 漢武帝

秋風起兮白雲飛
草木黄落兮雁南歸
蘭有秀兮菊有芳
懷佳人兮不能忘
泛樓船兮濟汾河
橫中流兮揚素波
簫鼓鳴兮發棹歌
歡樂極兮哀情多
少壯幾時兮奈老何

秋風(しゅうふう)の辞(じ) 漢の武帝
秋風(しゅうふう)起こって白雲(はくうん)飛ぶ
草木(そうもく) 黄落(こうらく)して雁(がん) 南に帰る
蘭(らん)に秀(しゅう)あり 菊に芳(ほう)あり
佳人(かじん)を懐(おも)うて 忘るる能(あた)はず
楼船(ろうせん)を泛(う)かべて汾河(ふんが)を済(わた)り
中流(ちゅうりゅう)に横たへ 素波(そは)を揚(あ)ぐ
簫鼓(しょうこ) 鳴(な)って棹歌(とうか)を発す
歓楽(かんらく) 極(きわ)まって哀情(あいじょう)多し
少壮(しょうそう) 幾時(いくとき)ぞ 老(ろう)を奈何(いかん)せん

現代語訳

秋風が吹き起こって白雲が飛ぶ
草木の葉が黄色くなり地に落ちて、雁が南に帰っていく
蘭の花が美しく咲き、菊はよい香りをただよわせる
私も、蘭や菊のようにすぐれた家臣を得たいものだ。そのことが常に念頭からはなれない。
屋形船を浮かべて汾水を渡り
中流に船を横たえて白波を上げる。
笛や太鼓が鳴って舟歌が起こる
しかし楽しみが極まると、かえって悲しい気持ちがわいてくる
さかんなる時が人生にどれほどあるだろう。やがて来る老いを、どうやって迎えようか

語句

■佳人 美人。ここでは有能な臣下。 ■樓船 二階建ての屋形船。 ■汾河 汾水。山西省北部から中央を流れ黄河に流れいたる。 ■素波 白い波。 ■簫鼓 笛と太鼓。 ■棹歌 舟歌。 ■奈老何 老いをどうしたらいいのか。やがて来る老いに怯え、対処がわからず呆然としているようす。

武帝

武帝(前156-87)。前漢の第七代皇帝。劉徹。内政においては国力を充実させ皇帝による中央集権化を確立し、外政においては周辺諸国を平定し領土を拡大した。武帝のとき前漢は全盛期をむかえた。

解説

漢の武帝が汾水の中流に屋形船を浮かべ、宴会を開き、その席で詠んだ詩。楽しさの絶頂で、かえってふと寂しい気持ちがわいてくる。今日までも通じる情ですね。

松尾芭蕉はおなじ心を、「おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな」とよみました。

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朗読:左大臣光永