桑乾を度る 賈島
本日は漢詩の朗読です。
賈島(かとう)「桑乾(そうかん)を度(わた)る」。
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故郷を離れて遠い地にすまうと、はじめそこは異国の地で馴染みもなかったが、さすがに10年もすんでいると愛着がわいてくる。第二の故郷といった気持ちになる…という内容です。
度桑乾 賈島
客舎并州已十霜
歸心日夜憶咸陽
無端更渡桑乾水
却望并州是故郷桑乾(そうかん)を度(わた)る 賈島(かとう)
并州(へいしゅう) に客舎(かくしゃ) して已(すで)に十霜(じっそう)
帰心(きしん) 日夜(にちや) 咸陽(かんよう)を憶(おも)う
端無(はしな)くも更(さら)に渡(わた)る 桑乾(そうかん)の水(みず)
却(かえ)って并州(へいしゅう)を望(のぞ)めば 是(こ)れ故郷(こきょう)
現代語訳
故郷の長安を離れ、并(へい)州に来てから十年になる。
毎日毎夜、長安に戻ることばかり考えていた。
だが今になって思いがけず桑乾河を渡り、
よそに旅立つこととなった。
振り返って并州を眺めると、
さすがに十年も暮らした地だけあって
故郷を離れるような情がこみ上げてくる。
語句
■桑乾 桑乾河。山西省を東に流れ河北省に向かい、北京市郊外の永定河(Yongding River)となる。 ■客舎 旅の宿。ここでは旅寝を重ねること。 ■并州 山西省太原市。 ■十霜 十年。 ■咸陽 長安(陝西省)西北の町。ここでは長安のこと。長安は秦の都。 ■無端 思いがけず。 ■却 振り返って。または「なんと
」。
解説
「并州之情(へいしゅうのじょう)」という言葉の出典となった詩で、結句の「却(かえ)って并州(へいしゅう)を望(のぞ)めば 是(こ)れ故郷(こきょう)」が有名です。
作者の賈島は、長安(陝西省)を離れて、遠く東の并州(山西省)に役人として赴任してきました。
ああ帰りたい、帰りたい。こんな異国の地はイヤだ。
…そう思いつつも十年が経ちました。
ところがまた、別の地へ旅立つことになった。
いざ出発という段になると、さすがに十年もいただだけあって、名残惜しい気持ちがわいてくる。第二の故郷とでもいうような…
心当たりのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
松尾芭蕉はこの詩とおなじ心を、『野ざらし紀行』の旅の中で
と、詠んでいます。
江戸に来てから十回目の秋を迎える。今、故郷伊賀上野に向けて旅立つのだが、もとは異郷だったはずの江戸のことが、かえって懐かしく、第二の故郷ともいうべき場所に思われる、と…
賈島。中唐期の詩人・官人。字は浪仙(ろうせん)。范陽(河北省)の人。科挙に落第し続け、苦渋の役人生活を送り、ついに出家した。後、還俗して進士に及第するも役人としては生涯不遇だった。
ある時、「鳥は宿る池中の樹、僧は推す月下の門」という対句を思いつくが、「僧は推(お)す」がいいか「僧は敲(たた)く」がいいか悩みながら夢中で歩いていると、都の長官である韓愈の行列にぶつかりました。
韓愈はわけを聞いて、賈島の詩に熱心であることに感心し、「敲く」がよいと評しました。これが「推敲」という言葉の出典です。
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