月夜(げつや) 客(かく)と酒を杏花(きょうか)の下に飲む 蘇軾

宋代の詩人、蘇軾の七言十二句からなる詩です。

ゆく春の淡い感傷がただよい、春の終わりには、思い出し、唱えたくなる詩です。

酒がぐいぐいすすむかんじです。

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月夜客與飲酒杏花下 蘇軾
杏花飛簾散余春
名月入戸尋幽人
褰衣歩月踏花影
烱如流水涵青蘋
花間置酒清香発
争挽長條落香雪
山城薄酒不堪飲
勧君且吸盃中月
洞簫聲断月明中
惟憂月落酒盃空
明朝巻地春風悪
但見緑葉棲残紅

月夜(げつや) 客(かく)と酒を杏花(きょうか)の下に飲む 蘇軾
杏花(きょうか) 簾(れん)に飛び余春(よしゅん)を散し
名月 戸に入り幽人(ゆうじん)を尋ぬ
衣(い)を褰(かか)げ 月に歩みて花影(かえい)を踏めば
烱(けい)として流水の青蘋(せいひん)を涵(ひた)すが如し
花間(かかん)に酒を置けば清香(せいこう)発し
争(いか)でか長條(ちょうじょう)を挽(ひ)きて香雪(こうせつ)を落とさん
山城(さんじょう)の薄酒(はくしゅ)は飲むに堪えざらん
君に勧む 且(しばら)く吸え 盃中(はいちゅう)の月
洞簫(どうしょう)聲(こえ)は断ゆ 月明(げつめい)の中(うち)
惟(た)だ憂(うれ)う 月落ちて 酒盃(しゅはい)の空しからんことを
明朝(みょうちょう) 地を巻きて春風(しゅんぷう)悪しくんば
但(た)だ見ん 緑葉(りょくよう)の残紅(ざんこう)を棲ましむるを

現代語訳

杏の花がすだれに降りかかって、晩春の季節はひとひらごとに去っていく。
明るい月が戸口に入って、世捨て人たる私を尋ねてきた。
衣の袖をはしょって、月明かりの中、地面に映った花の影を踏めば、
そのあざやかさは、流れ行く水が浮草をひたしているようだ。
花の間に酒を置けば、清らかな香りがただよう。
長い枝をひっぱって、かぐわしい雪のような杏の花を盃の中に落とそうか。そうするまでもない。
田舎町の酒は君には飲むにたえないだろう。
君にすすめる。ちょっと吸ってみるがいい。盃に映り込んだ月影を。
洞簫(管楽器の一種)の音はやんで、月明の中、
ただ気にかかるのは、月が沈んで、盃の中の月影が欠けてしまうことである。
明日の朝、大地を巻き上げて春風が意地悪にも吹いたなら、
もう見えるのは、緑の葉の間にわずかに残った花の紅だけだろう。

語句

■杏花 杏子の花。 ■幽人 世捨て人。隠者。蘇軾自身をいう。 ■褰衣 水をわたる時に上着の裾をからげること。 ■歩月 月明かりの中を歩くこと。 ■烱 あざやかであること。 ■青蘋 水草。浮草。 ■涵 ひたし浮かべる。 ■挽 引っ張る。 ■長條 長い枝。 ■香雪 杏花をたとえる。 ■山城 いなか町。 ■薄酒 安酒。 ■洞簫 管楽器の一種。 ■酒盃空 盃の酒の表面に映り込んでいた月が見えなくなってしまうこと。 ■巻地 大地を巻き上げて風が吹くさま。 ■残紅 残った花の紅色。 ■緑葉棲残紅 緑の葉が残った花に「住み家を提供している」と見る。

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