元二の安西に使するを送る 王維(げんじのあんせいにつかいするをおくる おうい)

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送元二使安西 王維
渭城朝雨潤輕塵
客舎青青柳色新
勧君更盡一杯酒
西出陽關無故人

元二《げんじ》の安西《あんせい》に使《つかい》するを送る 王維《おうい》
渭城《いじょう》の朝雨《ちょうう》 軽塵《けいじん》を潤《うるお》し
客舎青青《かくしゃせいせい》 柳色《りょうしょく》新《あら》たなり
君に勧《すす》む更《さら》に盡《つ》くせ一杯の酒
西のかた陽関《ようかん》を出《い》ずれば故人《こじん》無からん

長安→渭城→陽関→安西
長安→渭城→陽関→安西

現代語訳

渭城の朝の雨が軽い砂埃を潤している
旅館の前の柳の葉色も雨に洗われて瑞々しい

君にすすめる。
昨夜は大いに飲み明かしたが、
ここでもう一杯飲んでくれ。

西域地方との境である陽関を出れば、
もう友人は一人もいないだろうから。

語句

■元二 「元」は姓。「二」は次男であることを表す「排行」。「排行」とは同性の一族に年齢順に番号をふったもの。「元二」氏の本名はわかっていない。 ■安西 安西都護府。西域に対する守護にあたった。現在の新疆ウイグル自治区のトルファンにあったが、玄宗皇帝の時代にもっと西の庫車(クチャ)に移さた。 ■渭城 渭水を挟んで唐の都長安と向かい合う街で現在の陝西省咸陽市。咸陽の別名。長安から西方に旅立つ人をここで見送る習慣だった。 ■朝雨 朝の雨。■軽塵  軽い砂埃。 ■客舎青青柳色新たなり  「客舎」は旅館。その旅館の前の「柳色」(柳の色)が「青青」(青々としている)。印象的に残る描写。「柳」は別れを想起させるイメージ。中国では送別の時に柳の葉で輪を作って贈る習慣があり「柳」には「別れ」のイメージが結びつく。 ■陽関 敦煌の西南約70キロにある天山南路の関所。一方、天山北路の関所は玉門関(「子夜呉歌」李白)。いずれも西の最果て。その先はひたすら砂漠となる。地の果て、というニュアンス。 ■故人 古くからの友人の意。漢詩には頻出する言葉。「死んだ人」の意味ではない。

解説

【元二】は、「元」家の次男という意味の「排行」
(同性の一族に年齢順に番号をふったもの)で
ようは、「元」家の「次郎さん」のことです。
【元二】氏の本名はわかっていません。

その元二氏が【安西都護府】…
西域地方に対する辺境守備隊に、
書状をたずさえて、使者として旅立っていくのです。

王維はその元二氏を渭水をはさんで長安と向かい合う
渭城まで見送ります。西へ旅立つ旅人を、
ここ渭城まで見送る習慣でした。

王維と元ニ氏は旅館で一晩飲み明かして、
いろいろな話をして、翌朝。いよいよ出発です。

「客舎青青柳色新」…旅館の前の、
しっとり雨に濡れた柳の青が
印象的に描かれています。

古来、中国では人を見送る時、柳の枝を折って
旅人の安全を願って、持たせる習慣があります。

なので、「柳」は「別れ」のイメージに
直接結びつくのです。

馬をひっぱって、朝もやの中出発する元ニ氏。
その元ニ氏を、王維は見送るのです。

「元気でな。食べ物にはくれぐれも注意してな」
「ああ、そっちこそ」

「おっと、最後にもう一杯」

とっとっとっと…

「おい昨夜あんなに飲んだのに。まだ飲ませるつもりか」
「夜の酒は夜の酒だ。これはまた、別物だ。
さあ、出発前の景気付けに、もう一杯だけ飲んでくれ」
「まいったなあ。ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、ぷはーー」

こんな感じでしょうか。「君に勧む更に盡くせ一杯の酒」が、
いかにもカーーッと熱いものがこみあげます。
この転句は、思いっきり腹の底から声を出したいところです。
酒好きにはたまらないものがあります。

この詩は、ぜひ外で朗読したいです。
もともと、詩の内容から言って、屋外ですからね。
イジケた部屋の中の音ではだめなんです。
外で、誰気兼ねなく、思いっきり声を張り上げて!

勧君更盡一杯酒

と、やりたいところです。今夜も、夜の寺の境内で録音していますが、
やはり、土と木で囲まれた、自然な響き。最高です。
早朝に声出すのも、気持ちがいいですね。

東京なら荒川の土手。
京都なら鴨川の土手なんか素晴らしいです。

「九月九日山東の兄弟を憶う」「鹿柴」「竹里館」と並び、王維の代表作です。

別名を「贈別」「渭城曲」「陽関」ともいい、
「陽関三畳(ようかんさんじょう)」はこの詩の一部を
繰り返して三回歌うことです。

近年、元の時代に歌われていた楽譜が発見され、
それに基づいて今も歌われているそうです。

朗読:左大臣光永

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