白楽天「別舍弟後月夜」~旅の途上にある弟を思いやる詩

白楽天「別舍弟後月夜(舍弟に別れて後の月夜)」~旅の途上にある弟を思いやる詩です。
 

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別舍弟後月夜 白居易
梢梢初別夜
去住兩盤桓
行子孤燈店
居人明月軒
平生共貧苦
未必日成歡
及此暫爲別
懐抱已憂煩
況是庭葉盡
復思山路寒
如何爲不念
馬痩衣裳單

舍弟《しゃてい》に別《わか》れて後《のち》の月夜《げつや》 白居易
梢梢《しょうしょう》たり 初めて別れし夜
去住《きょじゅう》 両《ふた》つながら盤桓《ばんかん》たり
行子《こうし》は孤燈《ことう》の店《みせ》
居人《きょじん》は明月《めいげつ》の軒《のき》
平生《へいせい》 貧苦《ひんく》を共にし
未《いま》だ必《かなら》ずしも日々《ひび》に歓《かん》を成《な》さざりき
此《ここ》に及《およ》んで暫《しば》らく別《わか》れを為《な》すも
懐抱《かいほう》 已《すで》に憂煩《ゆうはん》す
況《いは》んや是《これ》庭葉《ていよう》尽《つ》き
復《ま》た思ふ 山路《さんろ》の寒きを
如何《いかん》ぞ為《ため》に念《おも》はざらん
馬痩《や》せて衣裳《いしょう》の単《ひとへ》なるを

現代語訳

別れてすぐの夜はしょげ返ってしまった。
去る者も、とどまる者も、どちらもためらって、なかなか別れられなかった。
すでに旅の途上にあるお前は、宿屋の寂しい灯火の下にいるのだろうか。
残った私は、軒端で名月をながめている。
いつも貧苦を共にし
必ずしも楽しい毎日を過ごしたとはいえない。
ここに至り、しばらく別れて暮らすことになったが、胸の内は、はやくも心配で満たされている。
まして庭の木の葉も散り尽くし、
山道の寒さを思えばなおさら気がかりだ。
どうしてお前のことを心配せずにおれよう。
馬は痩せて衣裳は単であるのに。

語句

■梢梢 意気消沈しているさま。しょげ返っているさま。 ■去住 去る者ととどまる者。 ■盤桓 躊躇する。ぐずぐずして行動に移れない。 ■行子 旅人。弟をさす。 ■成歓 楽しくすごす。 ■懐抱 胸のうち。 ■憂煩 あれこれと心配すること。 ■単 裏地のない、薄い衣。夏衣。

解説

弟を旅に送り出した後、残された兄(作者・白楽天)が、月夜の晩にしみじみ弟を心配している詩です。

『源氏物語』の注釈書『源氏釈』の中に、まさに同じ心をよんだ歌があります。

ある時はありのすさびに憎かりき無くてぞ人は恋しかりける(源氏釈)

(身近にいる時はそのことに馴れてしまって憎く思うこともあったが、いなくなってしまうと恋しいものだなあ)

光源氏の母、桐壷更衣が亡くなった後、生前いじめていた女房たちでさえ、「やっぱりあの人はすぐれた人だったわねえ」などと言っている場面でこの歌を引くきます(『源氏物語』「桐壷」

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朗読:左大臣