白楽天 「長恨歌」(二)

安禄山の乱によって首都長安を脱出した玄宗皇帝(上皇)の一行は、
遠く蜀の地(四川省)に難を逃れます。
途中、長安の西・馬嵬駅で兵士たちの不満が爆発し、
泣く泣く楊貴妃を殺すことになりました。

そして2年後。

安禄山は息子の安慶緒に殺され、首都長安は奪還されました。
玄宗上皇一行は、ふたたび長安に戻ってきます。

帰来池苑皆依旧
太液芙蓉未央柳
芙蓉如面柳如眉
対此如何不涙垂
春風桃李花開日
秋雨梧桐葉落時
西宮南内多秋草
落葉満階紅不掃
梨園弟子白髪新
椒房阿監青娥老

帰り来たれば池苑(ちえん)皆(みな)旧(きゅう)に依(よ)る
太液(たいえき)の芙蓉(ふよう) 未央(びおう)の柳
芙蓉(ふよう)は面(おもて)の如(ごと)く柳は眉の如し
此(これ)に対して如何(いかん)ぞ涙の垂れざらん
春風桃李(しゅんぷうとうり) 花開く日
秋雨梧桐(しゅううごどう) 葉落つる時
西宮南内(せいきゅうなんだい) 秋草(しゅうそう)多く
落葉(らくよう) 階(きざはし)に満ちて紅(くれない)掃わず
梨園(りえん)の弟子(ていし) 白髪(はくはつ)新たに
椒房(しょうぼう)の阿監(あかん) 青娥(せいが)老いたり

現代語訳

一行が長安宮に帰ってくると、池も苑もみな昔のままだった。
太液池のはすの花。未央宮の柳。

はすの花は楊貴妃の顔のように、柳は楊貴妃の眉のように思われる。
これに対して、どうして涙が垂れるのを抑えられよう。

春の風に桃や李の花が開く日、
秋の雨にアオギリの葉が落ちる時、
長安宮や興慶宮には秋の草が生い茂り
落ち葉がきざはしに散り敷き、紅葉を掃う人とてない。

玄宗皇帝が組織した楽団「梨園」の楽人たちは、白髪が急に目立つようになり、
皇后の居室の取り締り役の女官の若々しかった眉も、老いてしまった。

語句

■池苑 宮中の池と苑。 ■依旧 昔のまま。 ■太液 宮中の池の名。太液池。漢の武帝が作らせたもの。 ■未央 宮殿の名。漢の高祖が蕭何に作らせた。 ■梧桐 アオギリ。 ■西宮南内 「西宮」は長安の宮城。「南内」は興慶宮。玄宗は蜀がもどってしばらくは興慶宮にいたが上元元(760年)、西宮に移された。これは宦官李輔国(り ほこく)が玄宗に人気が出ることを恐れ、排除したもの。やがて玄宗の側近は流罪にされ、数を減らされ、玄宗は軟禁状態に置かれる。 ■階 宮殿のきざはし。 ■梨園弟子 「梨園」は玄宗が皇帝であったときに組織した楽団。弟子はその構成員。 ■白髪新 白髪が急に目立つようになった。 ■椒房 皇后の居室。 ■阿監 取り締まり役の女官。 ■青娥 若々しい眉。

解説

長安は奪還され、玄宗一行は数年ぶりに長安に戻ってきます。何を見ても楊貴妃が思い出され、心沈む玄宗のさまが描かれます。国政は宦官李輔国が取り仕切っていました。李輔国は玄宗がふたたび帝位つくことを恐れ玄宗の側近たちを流罪にし、玄宗をていよく軟禁状態にします。長安に、玄宗の居場所はもはやありませんでした。


夕殿蛍飛思悄然
孤灯挑尽未成眠
遅遅鐘鼓初長夜
耿耿星河欲曙天
鴛鴦瓦冷霜華重
翡翠衾寒誰与共
悠悠生死別経年
魂魄不曾来入夢

夕殿(せきでん)に蛍飛んで思い悄然(しょうぜん)たり
孤灯(ことう) 挑(かか)げ尽(つく)して(いま)未だ眠りを成さず
遅遅(ちち)たる鐘鼓(しょうこ) 初めて長き夜(よる)
耿耿(こうこう)たる星河(せいが) 曙(あ)けんと欲する天
鴛鴦(えんおう)の瓦(かわら)は冷ややかにして霜華(そうか)重く
翡翠(ひすい)の衾(しとね)は寒くして誰(たれ)と共にせん
悠悠(ゆうゆう)たる生死 別れて年を経(へ)たり
魂魄(こんぱく) 曾(かつ)て来(きた)りて夢に入らず

現代語訳

夜の宮殿に蛍が飛び、悲しみに暮れる心を照らし出す
たった一つしかないともし火をかき立て、かき立て尽くても、
まだ眠ることができない。

時刻を告げる鐘や太鼓は時の流れをじりじり遅く感じさせ、
夜の長さを初めて思い知らされる。

光り輝く天の川。まさに夜が明けようとしている空。
オシドリをかたどった瓦は冷ややかで、霜の花が降りかかっており、
カワセミの羽を刺繍した掛け布団は寒々として添い寝する者とてない。

生と死とに遠く隔たって、年月が経ってしまった。
楊貴妃の魂は、今まで夢の中にさえ出てくることも無い。

語句

■夕殿 夜の宮殿。 ■悄然 哀しみに暮れるさま。 ■孤灯 たった一つのともし火。 ■挑尽 ともし火を何度もかきたて、かきたて尽くすこと。 ■遅遅鐘鼓 時間が進むのが遅く感じられるさま。「鐘鼓」は時刻を告げる鐘や太鼓。 ■耿耿 光り輝くさま。 ■星河 天の川。 ■鴛鴦瓦 オシドリをかたどった瓦。オシドリは夫婦仲がいいので、それが冷ややかということで、玄宗と楊貴妃の仲が不運にみまわれたことを暗示する。 ■霜花 霜を花にたとえる。 ■翡翠衾 カワセミの羽を刺繍したかけ布団。鴛鴦も翡翠も、夫婦の暗示。 ■悠悠 遠く離れているさま。 ■魂魄 楊貴妃の魂。

解説

楊貴妃を想って鬱々として眠れない玄宗の様子です。鴛鴦(オシドリ)をかたどった瓦、翡翠(カワセミ)の羽を刺繍した布団、いずれも夫婦仲を象徴し、それが霜が降っており、寒々しているのは、玄宗と楊貴妃の関係が不運にみまわれたことを暗示します。

夢にさえ、楊貴妃はあらわれてくれない…「住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらん」百人一首の歌の藤原敏行の歌を、思い合わせておきましょう。


臨邛道士鴻都客
能以精誠致魂魄
為感君王展転思
遂教方士殷勤覓
排空馭気奔如電
昇天入地求之遍
上窮碧落下黄泉
両処茫茫皆不見

臨邛の道士 鴻都(こうと)の客
能(よ)く精誠(せいせい)を以(もっ)て魂魄(こんぱく)を致(いた)す
君王(くんのう)の展転(てんてん)の思いに感ずるが為(ため)に
遂(つい)に方士(ほうし)をして殷勤(いんぎん)に覓(もと)めしむ
空(くう)を排(はい)し気を馭(ぎょ)して奔(はし)ること電(いなずま)の如(ごと)く
天(てん)に昇り地に入(い)って之(これ)を求むること遍(あまね)し
上(かみ)は碧落(へきらく)を窮(きわ)め下(しも)は黄泉(こうせん)
両処茫茫(りょうしょぼうぼう)として皆見えず

現代語訳

臨邛出身の道士が長安に客人となっていたが、
よく精神を集中して死者の魂を招くということだった。
天子が楊貴妃を想い鬱々と眠れないほどの思いをされていることに心を動かし、
弟子の修験者に命じて楊貴妃の魂を丁寧に求めさせた。

空をかきわけて、大気に乗って、あらゆる所をさがしまわった。
上は大空の果てまで。下は黄泉の国まで。
しかしどちらもただ限りなく広がっているばかりで、見つけることはできなかった。

語句

■臨邛 四川省の地名。 ■道士 神仙の術を会得した修験者。 ■鴻都 長安。 ■精誠 精神の集中。 ■致魂魄 死者の魂を招く。 ■展転思 楊貴妃を想って鬱々とし、夜も眠れないほどの思い。 ■方士 方術をよくする者。前の道士と同一人物とする説もあるが、ここでは弟子の修験者と取る。 ■殷勤 丁寧に。 ■排空 空をかきわけて。 ■馭気 大気に乗って。 ■碧落 大空。 ■黄泉 死者の国。 ■茫茫 限りなく広がっているさま。

解説

ここから物語が急展開します。悲しみに暮れる玄宗にかわり、方士(神仙の術をあやつる者)が、楊貴妃の魂を探します。


忽聞海上有仙山
山在虚無縹緲間
楼閣玲瓏五雲起
其中綽約多仙子
中有一人字太真
雪膚花貌参差是
金闕西廂叩玉扃
転教小玉報双成
聞道漢家天子使
九華帳裏夢魂驚

忽(たちま)ち聞く 海上(かいじょう)に仙山(せんざん)有り
山は虚無縹緲(きょむひょうびょう)の間(かん)に在(あ)りと
楼閣(ろうかく)は玲瓏(れいろう)として五雲(ごうん)起こり
其(そ)の中(うち) 綽約(しゃくやく)として仙子(せんし)多く
中に一人(いちにん)有り 字(あざな)は太真(たいしん)
雪膚(せつぷ) 花貌(かぼう) 参差(しんし)として是(これ)ならん
金闕(きんけつ)の西廂(せいしょう)に玉扃(ぎょくけい)を叩き
転じて小玉(しょうぎょく)をして双成(そうせい)に報ぜしむ
聞道(きくなら)く漢家(かんか)の天子の使いなりと
九華(きゅうか)の帳裏(ちょうり) 夢魂(むこん)驚く

現代語訳

ふと聞き付けた。海上に仙女の住む山があると。
山は何も無い、遠くぼんやりしたあたりにあると。

高殿は明るく光り輝き、五色の雲がたなびき、
その中にはしなやかな身のこなしの仙女たちが多くいて、
中に一人ある者の名を太真という。

雪のように白い肌、花のように美しい顔。
どうやら、探しているその人らしい。

黄金の宮殿の西の棟に玉の扉を叩くと、
まず小玉(しょうぎょく)という名の仙女が
双成(そうせい)という名の仙女に取り次いで知らせた。

聞くことには、漢王朝の天子の使いであると。
それを聞いて彼女は、さまざまなさまざまな花模様を刺繍した
カーテンで閉ざされた部屋の内で夢から目覚めた。

語句

■忽聞 ふと聞きつける。 ■虚無縹緲間 何も無い、遠くぼんやりしたあたり。 ■楼閣 高殿。 ■玲瓏 明るく光り輝くさま。 ■五雲 五色の雲。 ■綽約 しなやか。たおやか。 ■仙子 仙女。 ■太真 玄宗皇帝は楊貴妃がすでに息子のもとに嫁いでいたのを強引に奪って後宮に入れた。しかし人目をはばかるため、楊貴妃を道士として太真と名乗らせた。それをふまえ、太真という名によって楊貴妃の霊であることを示す。 ■雪膚 雪のような肌。 ■花貌 花のように美しい顔。 ■参差是 どうやらそれらしい。 ■金闕 黄金の宮殿。 ■西廂 西側の棟。 ■玉扃(ぎょくけい) 玉の門。 ■転 伝えて取次をする。 ■小玉・双成 太真の侍女の名。「小玉」は呉王夫差の娘。「双成」は伝説上の仙女。 ■聞道 聞けば~ということだ。 ■九華帳裏 さまざまな花模様を刺繍したカーテンで閉ざされた部屋の内で。 ■夢魂驚 夢から覚める。

解説

仙人の山まで訪ねて行った方士は、ついに楊貴妃の魂を見出します。「太真」は実際に楊貴妃が使っていた名です。玄宗皇帝は息子の嫁であった楊貴妃を強引に奪って妻にしました。しかし人目をはばかって彼女を道士の姿にし、太真と名乗らせました。ここでは、そういう史実をふまえ、太真という名でまさに楊貴妃の魂であることを示します。


攬衣推枕起徘徊
珠箔銀屛邐迤開
雲鬢半偏新睡覚
花冠不整下堂来
風吹仙袂飄颻挙
猶似霓裳羽衣舞

衣(ころも)を攬(と)り枕を推(お)して起(た)ちて徘徊(はいかい)し
珠箔(しゅはく) 銀屛(ぎんぺい) 邐迤(りい)として開く
雲鬢(うんびん) 半(なかば)偏(かたよ)りて新たに睡(ねむ)りより覚め
花冠(かかん) 整(ととの)えず堂を下りて来(きた)る
風は仙袂(せんべい)を吹いて飄颻(ひょうよう)として挙(あが)り
猶(な)お霓裳羽衣(げいしょううい)の舞に似たり

現代語訳

上着を取り、枕を押しやって、立って行きつ戻りつする。
真珠のすだれと銀の屏風が彼女の歩みに従がって、いくつも次々と開く。
目覚めたままの美しい黒髪は、半ば傾き崩れており、
花の冠も整えず、奥の間から下ってきた。
風は仙女の衣のたもとを吹いて翻って上がり、
あたかも、霓裳羽衣(げいしょううい)のゆるゆかな舞を、舞っているようである。

語句

■徘徊 行きつ戻りつすること。 ■珠箔 真珠のすだれ。 ■銀屛 銀の屏風。 ■邐迤 いくつも続くさま。 ■雲鬢 雲のように見事な髪。 ■半偏 髪の毛が半ば崩れているさま。 ■花冠 花の冠。 ■仙袂 仙女の衣のたもと。 ■飄颻 ひるがえる様。 ■霓裳羽衣 既出。唐代の楽曲の名。ゆるやかな曲調だったらしい。玄宗が作曲したという説もある。 

解説

楊貴妃が目覚め、奥の間から降りてくる。それだけの描写に六句以上も使って、じっくりゆっくりスローモーションで見せます。


玉容寂寞涙闌干
梨花一枝春帯雨
含情凝睇謝君王
一別音容両渺茫
昭陽殿裏恩愛絶
蓬萊宮中日月長
迴頭下望人寰処
不見長安見塵霧

玉容(ぎょくよう) 寂寞(じゃくまく)として涙 闌干(らんかん)
梨花一枝(りかいっし) 春の雨を帯ぶ
情(じょう)を含み 睇(ひとみ)を凝(こ)らして君王(くんのう)に謝し
一別(いちべつ)音容(おんよう) 両(ふた)つながら渺茫(びょうぼう)
昭陽殿裏(しょうようでんり) 恩愛(おんあい)絶え
蓬萊宮中(ほうらいきゅうちゅう) 日月(じつげつ)長し
頭(こうべ)を迴(めぐ)らして下(しも)人寰(じんかん)を望む処(ところ)
長安を見ずして塵霧(じんむ)を見る

現代語訳

美しい顔は寂しげであり涙がとめどなく流れ、
一枝の梨の花が、春雨に濡れているさまを思わせる。
心をこめて、瞳を凝らして、帝にお礼を申し上げる。

「お別れして以来、帝の御声も御姿も、
どちらもはるかにかすんでしまいました。

昭陽殿で寵愛を賜りましたが、それも絶えてしまい、
今や仙女の世界の山にある蓬萊宮で長い月日を過ごしております。

頭をめぐらして人間世界を望みましても、
長安の都は見えず、ただ塵と霧が見えるだけです」

語句

■玉容 美しい顔。 ■寂寞 寂しげであること。 ■闌干 涙がとめどなく流れるさま。 ■含情 思いをこめ。 ■一別 お別れして以来。 ■音容 声と姿。 ■渺茫 はるかにかすかなさま。 ■昭陽殿 漢の成帝が趙飛燕姉妹を住まわせた御殿。ここでは楊貴妃が住んだ御殿。 ■蓬萊宮 海上の仙山にある宮殿。 ■人寰 人間世界。

解説

いよいよクライマックスです。楊貴妃が方士の前にあらわれ、切々と思いを述べます。「梨花一枝 春の雨を帯ぶ」は特に有名な言葉です。ぜひ中国語でも聴いてください。


唯将旧物表深情
鈿合金釵寄将去
釵留一股合一扇
釵擘黄金合分鈿
但令心似金鈿堅
天上人間会相見
臨別殷勤重寄詞
詞中有誓両心知

唯(ただ)旧物(きゅうぶつ)を将(も)って深情(しんじょう)を表わし
鈿合(でんごう) 金釵(きんさ) 寄せ将(も)ち去らしむ
釵(さ)は一股(いっこ)を留(とど)め 合(ごう)は一扇(いっせん)
釵(さ)は黄金(おうごん)を擘(さ)き 合(ごう)は鈿(でん)を分(わか)つ
但(た)だ心をして金鈿(きんでん)の堅(かた)きに似(に)しむれば
天上(てんじょう) 人間(じんかん) 会(かなら)ず相(あい)見(まみ)えん
別(わか)れに臨(のぞ)んで殷勤(いんぎんに)重ねて詞(ことば)を寄す
詞中(しちゅう)に誓(ちか)い有り 両心(りょうしん)のみ知る

現代語訳

ただ思い出の品を送ることで深い気持ちを表そうと、
螺鈿の小箱と金のかんざしを使者に託した。

かんざしは二つに折ってその一方を、箱は蓋と身に分けて、
その一方を手元に留める。

かんざしは黄金を裂かれ、小箱は螺鈿を分かたれたが、
二人の心を金や螺鈿のように堅いものにするならば、
天上界でも人間界でも再び会うことができるだろう。

別れ際に、丁寧に、重ねて伝言を託す。

その言葉の中にある誓いは、二人の心のみが知るものである。

語句

■旧物 思い出の品。 ■鈿合 螺鈿細工の小箱。 ■金釵 金のかんざし。 ■釵留一股合一扇 かんざしは二つに折ってその一方を、箱は蓋と身の一方を手元に留める。 ■金鈿堅 金や螺鈿のような堅さ。 ■両心知 玄宗と楊貴妃の二人の心だけ。

解説

楊貴妃は玄宗に思い出の品…金のかんざしと螺鈿の小箱を託します。そして、


七月七日長生殿
夜半無人私語時
在天願作比翼鳥
在地願為連理枝
天長地久有時盡
此恨綿綿無絶尽

七月七日(しちがつなぬか) 長生殿(ちょうせいでん)
夜半(やはん0)人無く私語(しご)の時
天に在(あ)りては願はくは比翼(ひよく)の鳥となり
地に在(あ)りては願はくは連理(れんり)の枝と為(な)らんと
天は長く地は久しきも時有りて尽く
此(こ)の恨みは綿綿(めんめん)として尽くる期(とき)無からん

現代語訳

それは七月七日長生殿でのこと。
真夜中に、人も無い中、ささやかれた言葉であった。

天にあっては願はくは比翼の鳥となり、
地にあっては願はくは連理の枝とならんと。

天は長く地は久しいが、いつかは終わりの時が来る。
しかし、この悲しみは、いつまでも続いて尽きる時が無いだろう。

語句

■長生殿 長安の東驪山(りざん)の華清宮にあった宮殿の名。 ■私語 ひそかに言った。 ■比翼鳥 雌雄ひとつがいで、いつも仲良く飛ぶ鳥。 ■連理枝 幹が二本で枝が一本につながった木。愛し合う男女のたとえ。 ■恨 悲しみ。 ■綿綿 長く続いて絶えないさま。

解説

全体のしめくくりです。深い余韻を残します。「長恨歌」という題名の意味もあきらかにされます。天に在(あ)りては願はくは比翼(ひよく)の鳥となり地に在(あ)りては願はくは連理(れんり)の枝と為(な)らん。天は長く地は久しきも時有りて尽く此(こ)の恨みは綿綿(めんめん)として尽くる期(とき)無からん…

朗読:左大臣光永

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