燕歌行 曹丕(えんかこう そうひ)

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燕歌行 曹丕
秋風蕭瑟天気涼
草木搖落露為霜
羣燕辭帰雁南翔
念君客遊思断腸
慊慊思帰戀故郷
君何淹留寄他方
賤妾煢煢守空房
憂来思君不敢忘
不覚涙下霑衣裳
援琴鳴絃發清商
短歌微吟不能長
明月皎皎照我牀
星漢西流夜未央
牽牛織女遥相望
爾獨何辜限河梁

燕歌行(えんかこう) 曹丕(そうひ)
秋風(しゅうふう) 蕭瑟(しょうしつ)として天気(てんき)涼(すず)しく
草木(そうもく) 搖落(ようらく)して 露(つゆ) 霜(しも)となる
群燕(ぐんえん) 辞(じ)し帰(かえ)り 雁(がん) 南(みなみ)へ翔(と)び
君(きみ)が客遊(かくゆう)を念(おも)えば 思(おも)い腸(はらわた)を断(た)つ
慊慊(けんけん)として帰(かえ)らんと思(おも)い故郷(こきょう)を恋(こ)わん
君(きみ) 何(なん)ぞ淹留(えんりゅう)して他方(たほう)に寄(よ)るや
賎妾(せんしょう) 煢々(けいけい)として空房(くうぼう)を守(まも)り
憂(うれ)い来(きた)って君(きみ)を思(おも)い 敢(あえ)て忘(わす)れず
覚(おぼ)えず 涙下(なみだくだ)って衣裳(いしょう)を霑(うるお)すを
琴(きん)を援(ひ)き絃(げん)を鳴(な)らして清商(せいしょう)を発(はっ)し
短歌(たんか) 微吟(びぎん)すれども 長(なが)くすること能(あた)わず
明月(めいげつ) 皎皎(こうこう)として 我(わ)が牀(しょう)を照(て)らし
星漢(せいかん) 西(にし)に流(なが)れて 夜(よる)未(いま)だ央(つ)きず
牽牛織女(けんぎゅうしょくじょ) 遥(はる)かに相望(あいのぞ)む
爾独(なんじひと)り何(なん)の辜(つみ)ありて河梁(かりょう)に限(かぎ)らる

現代語訳

秋風がわびしげに吹き、肌寒くなってきた。
草木は葉を落とし、露は霜となった。
燕の群れが帰っていき、雁は南に飛ぶ。

あなたも旅の愁いに沈んでいるのでしょうか。
それを思うとはらわたが引き裂かれそうです。

心満たされず、すぐにでも帰りたいと、
故郷を懐かしんでおいででしょうか。

どうしていつまでも異国に留まって
いらっしゃるのですか。

私は空しく留守の家を守っております。
しかし貴方のことを忘れる時はなく、
知らず知らずに涙が流れ、衣装を濡らします。

琴を弾き弦を鳴らして澄んだ音を奏でてみましたが、
声は短く途切れ、のびのびと歌うなんてとてもできません。

明月がしらじらと私の寝台を照らし、
天の川が西に傾いたが夜はまだ明けません。

牽牛織女は天の川を隔ててはるかに向かい合っています。
どんな罪があって、二人は引き離されてしまったのでしょうか。

語句

■蕭瑟 わびしげに吹く。 ■天気 大気。空気。 ■揺落 枯葉が舞い散ること。 ■羣燕 燕の群れ。 ■辭帰 帰っていく。 ■客遊 故郷を離れて旅をすること。 ■断腸 腸が引き裂かれるほど激しい憂い。 ■慊慊 心が満たされないさま。 ■淹留 長くとどまること。 ■他方 よその土地。 ■賤妾 妻が自分をへりくだっていう言い方。 ■煢煢 孤独であること。 ■空房 夫のいない空しい寝室。 ■不敢忘 貴方のことがどうしても忘れられない。 ■霑 濡らす。 ■琴 七弦の中国琴。 ■清商 商の曲調。「商」は中国の五音階の第ニ音。悲しげでな調子。五音は、宮・商・角・徴(ち)・羽。 ■微吟 かすかに口ずさむ。 ■不能長 胸がいっぱいで長く歌えない。 ■皎皎 月がかがやいているさま。 ■牀 寝床。寝台。 ■星漢 天の川。 ■夜未央 夜が明けない。 ■牽牛 鷲座のα星アルタイルの中国名。彦星。 ■織女 こと座のαベガの中国名。織姫。 ■相望 互いにながめる。 ■爾 あなたたち。牽牛織女。 ■辜 罪。 ■河梁 ここでは天の川。 ■限 隔てられる。

解説

燕歌行」は異国にいる夫を思いやる妻の心を歌った、漢代の歌曲。
子夜呉歌」と近いテーマです。

曹丕(187-226)字は子桓。曹操の次男です。魏の初代皇帝となりました。(曹操の時代はまだ「魏」という国家ではなく、あくまで「漢の中の魏」という扱い)。

代表作「雑詩

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朗読:左大臣光永

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