登高 杜甫(とうこう とほ)

登高 杜甫
風急天高猿嘯哀
渚清沙白鳥飛廻
無邊落木蕭蕭下
不盡長江滾滾來
萬里悲秋常作客
百年多病獨登臺
艱難苦恨繁霜鬢
潦倒新停濁酒杯

登高 杜甫
風急に天高くして 猿嘯哀し
渚清く 沙白くして 鳥飛び廻る
無辺の落木 蕭蕭として下り
不尽の長江 滾滾として来る
万里悲秋 常に客となり
百年多病 独り台に登る
艱難 苦(はなは)だ恨む 繁霜の鬢
潦倒(ろうとう) 新たに停む 濁酒の杯

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現代語訳

風は激しく吹き、天は抜けるように高く、猿の声が悲しげに響く。
渚は清らかで 砂は白く 鳥が飛び廻っている。

落ち葉は際限もなく悲しげに散り落ち
尽きることのない長江の流れはこんこんと迫ってくる。

故郷を去って万里、毎年秋を悲しい旅人の身で迎える。
体は長年、病を患っている。そんな身で独り、台に登るのだ。

長年の苦労で、恨めしいことに鬢の毛はすっかり白くなってしまった。
落ちぶれ果てたこの身に追い討ちをかけるように、好きだった酒さえ 禁じられてしまった。

語句

■登高 九月九日の重陽の節句に高台に上って菊酒を飲んで邪気払いをする習慣のこと。王維「九月九日山東の兄弟を憶う」。 ■猿嘯 サルの鳴き声。李白「早発白帝城」に「両岸猿声啼不住」とある。 ■無辺 果てしない。 ■落木 落葉。 ■蕭蕭 さびしげな様子。 ■滾滾 こんこん。水が流れ続ける様子。 ■客 旅人。 ■艱難 苦労。 ■繁霜鬢 霜のように白くなった鬢。 ■潦倒 ろうとう。老いぼれ。落ちぶれたさま。 ■濁酒 濁り酒。どぶろく。 島崎藤村「千曲川旅情の歌」に「濁り酒濁れる飮みて」とある。

解説

大暦2年(767年)、杜甫56歳の作。故郷を目指す途中、キ州(四川省奉節県)に滞在した杜甫は重陽の節句を迎えました。九月九日重陽の節句には高台に上り菊酒を飲んで邪気払いをする習慣がありました。

しかし、杜甫には一緒にこの日を祝う相手もなく、独り老年の孤独の中に高台に登るのです。晩年の孤独が、しみじみと伝わってくる詩です。

本来律詩は顎聯と頸聯のみ対句であればいいのですが、この詩は四聯すべてを対句にしています。こういうのを全対格(ぜんついかく)といいます。しかしわざとらしさは感じられず、自然な言葉の流れの中に杜甫の深い孤独が伝わってきます。

明代の評論家胡応鱗は「七言律詩の第一」とこの詩を絶賛しました。

島崎藤村の「千曲川旅情の歌」は、この詩の影響が感じられます。島崎藤村は杜甫の大ファンでした。

暮れ行けば浅間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて
草枕しばし慰む

朗読:左大臣

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