秋興 杜甫(しゅうきょう とほ)

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秋興 杜甫
玉露凋傷楓樹林
巫山巫峡気蕭森
江間波浪兼天沸
塞上風雲接地陰
叢菊両開他日涙
孤舟一繋故園心
寒衣處處催刀尺
白帝城高急暮砧

秋興 杜甫
玉露 凋傷す 楓樹の林
巫山巫峡 気 蕭森たり
江間の波浪 天を兼ねて沸き
塞上の風雲 地に接して陰る
叢菊 両(ふたた)び開く 他日の涙
孤舟 一(ひとえ)に繋ぐ 故園の心
寒衣 處處 刀尺を催(うなが)し
白帝城 高くして暮砧急なり

現代語訳

玉のような露が楓の林に下りてきて、しおれさせる。
巫山にも巫峡にも秋の静かな空気が満ちている。

川波は天に届くばかりに湧き上がり、
城塞のあたりの風雲は地に接するほど垂れ込めている。

故郷を去ってから、再び野菊の咲く季節を迎えたが、
過去を思い出し、涙がこみあげる。

一艘の舟を岸辺につないだままなのは、
私の望郷の想いを故郷につなぎとめたいからなのだ。

あちらでもこちらでも冬服の準備で裁縫に忙しいとみえる。
白帝城は高くそびえ、暮れ方になって砧を叩く音が響いてくる。

巫山・巫峡・白帝城
巫山・巫峡・白帝城

語句

■玉露 玉のような露。 ■凋傷 しぼませ傷ませること。 ■楓樹林 楓の林。 ■巫山 キ州(四川省奉節県)の東にある山。 ■巫峡 三渓の一つで、巫山のそばの渓谷。■蕭森 静かで物寂しいこと。 ■江間 長江の流れ。 ■兼天 天に届くばかりに。 ■塞上 砦の付近。 ■叢菊 野菊。 ■他日涙 過去を思い涙する。 ■孤舟 一艘の舟。 ■一繋 つないだままである。 ■故園 望郷。 ■寒衣 冬服。 ■刀尺 はさみとものさしで。裁縫のこと。 ■白帝城 キ州の白帝城の上にある城。蜀の劉備玄徳が亡くなった場所。 ■暮砧 夕暮れに打つ砧。

解説

大暦元年(766年)、杜甫55歳の作。前年、杜甫は住み慣れた成都の地を出て、家族と共に故郷を目指し長江を下ります。

その途中、白帝城のそばのキ州(四川省泰節県)に居を構え、2年ほど住まいました。「秋興」はキ州で秋を迎えた杜甫がその感慨を詠んだ八作連作の詩で、これはその一作目です。

「白帝城」は、三国志の劉備元徳が亡くなった場所で、現在はダムが出来て島になってしまいました。李白「早発白帝城」が有名です。

島崎藤村の詩「千曲川旅情の歌」の後半に「千曲川柳霞て/春浅く水流れたり/たゞひとり岩をめぐりて/この岸に愁を繋ぐ」とありますが、杜甫の「秋興」に影響を受けたものと思われます。島崎藤村は大の杜甫ファンでした。

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朗読:左大臣光永

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