夏目漱石 無題

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無題 夏目漱石
眞蹤寂莫杳難尋
欲抱虚懷歩古今
碧水碧山何有我
蓋天蓋地是無心
依稀暮色月離草
錯落秋聲風在林
眼耳雙忘身亦失
空中獨唱白雲吟

眞蹤(しんしょう) 寂莫(せきばく) 杳(よう)として尋(たず)ね難(がた)く
虚懐(きょかい)を抱(いだ)いて古今(ここん)を歩(あゆ)まんと欲(ほっ)す
碧水碧山(へきすいへきざん) 何(なん)ぞ我(わ)れ有(あ)らん
蓋天蓋地(がいてんがいち) 是(こ)れ無心(むしん)
依稀(いき)たる暮色(ぼしょく) 月(つき)は草(くさ)を離(はな)れ
錯落(さくらく)たる秋聲(しゅうせい) 風(かぜ)は林(はやし)に在(あ)り
眼耳(めみみ) 双(ふた)つながら忘(わす)れ 身亦(みま)た失(うしな)はれ
空中(くうちゅう)に 独(ひと)り唱(しょう)す 白雲(はくうん)の吟(ぎん)

現代語訳

真理の道は寂しく、まったくもって到達しようがない。
澄み切った思いを得たくて、古今の文化を探求してきた。

緑の水緑の山。その前に私の存在などちっぽけなものだ。
天地を覆うのはただ無心である。

ぼんやりした夕暮れ時、月は草の上に上がり
入り混じった秋風の音がして風は林の中を吹いている。

目も耳もどちらも忘れてしまい、精神は肉体を離れ、
空中に一人「白雲の吟」を歌うのだ。

……

夏目漱石の亡くなる二十日ほど前に書かれた絶筆です。なんか幽体離脱してるっぽいですが、漱石が唱えた「則天去私」の境地を詩にあらわしたものです。

朗読:左大臣光永

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