蘇台覧古 李白(そだいらんこ りはく)

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蘇台覽古 李白
舊苑荒臺楊柳新
菱歌淸唱不勝春
只今惟有西江月
曾照呉王宮裏人

蘇台覧古(そだいらんこ) 李白
旧苑(きゅうえん) 荒台(こうだい) 楊柳(ようりゅう) 新(あら)たなり
菱歌(りょうか) 清唱(せいしょう) 春(はる)に勝(た)えず
只今(ただいま) 惟(た)だ西江(せいこう)の月(つき)のみあって
曾(かつ)て照(て)らす呉王宮裏(ごおうきゅうり)の人(ひと)

現代語訳

古びた庭園と荒れた高台。柳だけは毎年新しくなり、菱の実を取る乙女たちの澄んだ歌声が響いている。それを聞いていると、春の感傷がこみ上げてくる。

今は西江の上に上がる月だけが往時をしのばせる。かつてあの同じ月が、呉王夫差の宮殿の絶世の美女・西施を照らしていたのだ。

語句

■蘇台 姑蘇台の略。紀元前5世紀、呉の国王夫差の宮殿があった。江蘇省蘇州市の西・姑蘇山山頂にある。 ■覧古 昔を懐かしむこと。 ■旧苑 古い園。■荒台 荒れた高台。 ■菱歌 菱を取りながら歌う娘さんたちの歌。 ■清唱 清らかに歌う。 ■勝春 春の感傷に耐えられない。 ■西江 姑蘇台の西を流れている川。 ■呉王宮中裏の人 呉王夫差の宮殿にいた美女・西施。

解説

呉王夫差と美女西施ゆかりの姑蘇台を訪ねた(あるいはイメージした)李白が、昔のおもかげは何も残ってない。ただあの月だけがかつて西施を照らしていたのと同じ月なのだなあと感慨にふけっているのです。

その昔、越の国に西施という薪売りの娘がありました。村で評判の美人で、西施が通ると村の若い者は皆ふりかえりました。

西施は胸を病んでいたために、ある時調子を悪くして、スッと眉をしかめると、その様子がいかにも美しいので、村の女たちが「あっ、ああすればいいのね!」西施のマネをして眉をしかめると、もともと醜い顔がますます醜くなったという「顰(ひそみ)に倣(なら)う」という故事のもとになっています。

ある時、西施が谷川で洗濯をしていました。すると谷川を泳いでいた魚たちが、西施の脚に見とれているうちに、泳ぐことを忘れてブクブクブクブク…沈んでしまったという「沈魚美人(ちんぎょびじん)」という逸話も伝わっています。

「この娘は使える…」

越の国の軍師・范蠡(はんれい)は西施の美しさに目をつけました。

「娘よ、その美しさを、わが国のために活かしてみる気はないか」
「えっ…私がですか。でも私はただの薪売りです。
読み書きなんて、できません。そんな、公務員なんて、とても無理ですわ」
「そういったことは全部教えるから安心せよ。ついてくるがよい」

西施は越王の後宮に召されると、そこで礼儀作法や歌や踊り、読み書きの訓練を受け、敵国・呉の国王・夫差のもとに送られます。夫差はたちまち西施の美しさに夢中になり、国政はおとろえました。

そこへ越の軍勢が攻め寄せ、ついに呉は滅んでしまったという話です。

李白はその、呉王夫差の宮殿のあった姑蘇台…現在の江蘇省蘇州市の西・姑蘇山山頂に立って、絶世の美女西施の故事にしみじみと思いをはせているのです。

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朗読:左大臣光永光永

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