沁園春 雪 毛沢東(しんえんしゅん ゆき もうたくとう)

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1934-36年国民党軍に包囲された共産軍が脱出をかけて行った1万2500キロにわたる行軍。

いわゆる「長征」の途上で詠まれました。

沁園春 雪 毛沢東
北國風光
千里冰封
萬里雪飄
望長城内外
惟餘莽莽
大河上下
頓失滔滔
山舞銀蛇
原馳蠟象
欲與天公試比高
須晴日
看紅裝素裹
分外妖嬈

江山如此多嬌
引無數英雄競折腰
惜秦皇漢武
略輸文采
唐宗宋祖
稍遜風騒
一代天驕成吉思汗
只識彎弓射大雕
倶往矣
數風流人物
還看今朝

沁園春 雪(しんえんしゅん ゆき) 毛沢東(もうたくとう)
北国(ほくこく)の風光(ふうこう)
千里(せんり) 氷(こおり)に封(とざ)され
万里(ばんり) 雪翻(ゆきひるがえ)る
長城(ちょうじょう)の内外(ないがい)を望(のぞ)めば
惟(た)だ莽莽(ぼうぼう)たるを余(あま)すのみ
大河(たいが)の上下(じょうげ)は
頓(とみ)に滔滔(とうとう)たるを失(うしな)う
山(やま)には銀蛇(ぎんだ)舞(ま)い
原(はら)には蝋象(ろうぞう)馳(は)せ
天公(てんこう)と高(たか)さを比(くら)ぶるを試(こころみ)んと欲(ほっ)す
晴日(せいじつ)を須(ま)って
紅装(こうそう)と素裹(そか)とを看(み)れば
分外(ぶんがい)に妖嬈(ようじょう)たらん

江山(こうざん)は此(か)くの如(ごと)く多(はなは)だ嬌(なまめ)かしく
無数(むすう)の英雄(えいゆう)を引(ひ)いて競(きそ)いて腰(こし)を折(お)らしむ
惜(おし)むらくは秦皇(しんこう)と漢武(かんぶ)は
略(ほぼ)文采(ぶんさい)に輸(おと)り
唐宗(とうそう)と宋祖(そうそ)は
稍(やや)風騒(ふうそう)に遜(ゆず)る。
一代(いちだい)の天驕(てんきょう)成吉思汗(じんぎすかん)も
只(た)だ弓(ゆみ)を彎(ひ)いて大雕(だいちょう)を射(い)るを識(し)るのみ
倶(とも)に往(ゆ)きぬ
風流(ふうりゅう)の人物(じんぶつ)を数(かぞ)へんには
還(な)お 今朝(こんちょう)を看(み)よ

現代語訳

北国の風向は千里のはてまで氷に閉ざされ、
万里の果てまで雪が翻っている。

長城の内外を望めば、
ただ一面茫茫とした景色だ

黄河の水は上流も下流も寒気にあってたちまち氷結してしまい、
滔滔たる流れを失ってしまった。

白銀の山々は、まるで銀色の蛇が舞っているようだし、
高原の雪は白蝋の象が走っているように見える。

天と試しに高さを競い合おうというほどの勢いだ。

しかし晴れた日になって、紅く装い白く身を包んだ様子を見れば、
特に妖しく、なまめかしいことだ。

わが国の風土はこのように大変美しく、
無数の英雄たちがそれを前に膝を折ってきた。

だが惜しいことに、秦の始皇帝と漢の武帝は大体において文才に欠けていたし、
唐の太宗と宋の太祖は風流を解することやや乏しかった。

かの一代の天の驕児と言われたジンギスカンも、
ただ弓を引いて大鷲を射ることしか知らなかった。

こういった人々はみな、歴史の彼方へと消え去っていった。

真の風流人を数えたいなら、今のこの世を見るがいい。

語句

■風光 景色。 ■冰封 氷にとざされている。 ■長城 万里の長城の内外。 ■莽莽 広々と果てしないさま。 ■大河上下 黄河の上流と下流。 ■頓 とみに。(寒気にあって)たちまちに。 ■滔滔 水が激しく流れるさま。 ■銀蛇 銀色の蛇が舞うような、白銀の山々。 ■原 高原。 ■蝋象 白い象。 ■天公】 天。

■須 待つ。 ■分外 格別に。 ■妖ジョウ】 なまめかしく、妖しい。 ■江山 わが国土。 ■多嬌 とても、あでやかだ。 ■引 引っ張って。 ■秦皇 秦の始皇帝(BC259-210)。 ■漢武 漢の武帝(BC159-BC87)。 ■略 ほぼ。だいたい。 ■文采 文才。 ■唐宗宋祖 唐の太宗李世民(599-649)。 ■宋祖 宋の太祖趙匡胤(927-976)。

■稍 やや。ちょっと。 ■風騒 風流。 ■天驕 驕児。おごりたかぶった人。やりたい放題の人。 ■成吉思汗 ジンギスカン(1162?-1227)。モンゴル帝国の基礎をつくった。 ■大雕 オオワシ。 ■倶往矣 「倶」は皆。「往」は過ぎる。 ■今朝 今の時代。

解説

始皇帝もジンギスカンも大したことは無いと言い切る大胆さ。気迫。読んでいて心が高揚します。

「来てみれば 聞くより低し富士の山 釈迦も孔子もかくやあるらむ」という村田清風の歌を思い出しました。

過去の王朝の創始者たちなんて、屁でもないぞ。俺こそが風流を解し、しかも新しい世を作る革命家。俺が一番なのだ、という詩です。

強い自尊心。朗読していると気分が高揚してきます。

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朗読:左大臣光永

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