山中問答 李白(さんちゅうもんどう りはく)

山中問答 李白
問余何意棲碧山
笑而不答心自閑
桃花流水杳然去
別有天地非人間

山中問答 李白
余に問ふ 何の意ぞ碧山(へきざん)に棲むと
笑って答えず 心自から閑(かん)なり
桃花流水(とうかりゅうすい) 杳然(ようぜん)として去る
別に天地の人間(じんかん)に非(あら)ざる有り

現代語訳

「どういう気持ちでこんな緑深い山奥に住んでいるのか」
人が私に尋ねる。

私は笑うばかりで答えない。
心はどこまでものびのびしている。

桃の花びらを浮かべ、水はどこまでも流れていく。
ここは俗世間とは違う、別天地だ。

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語句

■碧山 緑深い山奥。■心自閑 心はどこまでものびのびしている。 ■桃花流水 桃の花を浮かべて流れる川。陶淵明の小説『桃花源記』に、漁師が谷川に浮かんだ桃の花びらをたどっていくうちに桃源郷に迷い込んだという話による。この小説が「桃源郷」という言葉の元となった。 ■杳然 奥ぶかいさま。 ■人間 人の世。俗世間。

解説

陶淵明の影響のもとに作られた詩です。世捨て人精神に溢れ、すばらしいと思います。

しかもこの主人は、こういう脱俗の暮らしを都会人に押し付けようとはしていないですね。「笑って答えず」ここが、いいです。

あんた田舎はいいよ~。山中の暮らし最高だよ~なんてムキになって語る必要はないんです。

俗世間にも脱俗にも、それぞれ幸福がある。主人はそれをちゃんと知ってるようです。だから押し付けない。「笑って答えず」なのです。

「桃花流水」という言葉からは、 陶淵明の小説『桃花源記』が思い起こされます。

昔、南中国のある漁師が、
谷川をさかのぼって舟をこいでいる間に、
すっかり山奥に来てしまいました。

「まいったなあこんな山奥まで来ちまった。
夜までに戻れるかな?」

ふと見ると、美しい桃の花が咲いています。
花びらがひらひら舞い散って水面に落ち、いい雰囲気です。

「しかしこんな所に桃の花とは…気になるなあ。 どうせだから、水源までのぼってみるか」

漁師はギィギィと舟をこいでいきます。上流へ、さらに上流へ。
やがて水源にたどり着くと、
そこは一面、桃の林でした。

「ひゃあーたまげたもんだ」

ふと見ると、近くの山の斜面に洞窟があり、
中からなんともいえないフクイクたる香りが漂ってきます。

「くんくん…なんだろう?」

漁師は舟から降り、洞窟に入っていきます。
最初は人一人がやっと通れるくらいの広さでしたが、
しだいに道が広くなり、数10メートル進んだところで
ぱあっと視界が開けます。

「わあっ…」

そこにはのんびりした田園風景が広がり、
鶏や犬が鳴き声があちこちから聞こえてきました。

「おう、見慣れない顔だねえ。
どこから来なすった」

「え、ええっと…」

村人たちはとても気さくで、いい人ばかりでした。
しかし気になることに、誰も彼も、
今の時代とは少し違う感じの衣を着ています。

漁師は村の人の家に招かれ、酒や料理をふるまわれます。
そこで聞かされたのでした。この村のゆらいを。

村人の先祖は秦の時代に戦乱を避けてこの山奥に逃げてきたのでした。
それから、ずっとこの村で生活していました。

秦が滅びたことも、漢が起こったことも、
三国時代のことも、村人はまったく知りませんでした。

漁師はどんなに時代が変わったかを村人たちに話します。
そして後日訪ねていった時には、桃の林も、
洞窟も見つけられませんでした。

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飲酒 陶淵明
「菊を采る東籬の下悠然として南山を見る」で有名な詩です。「山中問答」に通じる精神があります。

朗読:左大臣