苦寒行 曹操(くかんこう そうそう)

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苦寒行 曹操
北上太行山
艱哉何巍巍
羊腸坂詰屈
車輪爲之摧
樹木何蕭瑟
北風聲正悲
熊羆對我蹲
虎豹夾路啼
谿谷少人民
雪落何霏霏
延頸長歎息
遠行多所懷

苦寒行(くかんこう) 曹操(そうそう)
北(きた)のかた太行山(たいこうざん)に上(のぼ)れば
艱(かた)き哉(かな) 何(なん)ぞ巍巍(ぎぎ)たる
羊腸(ようちょう)の坂(さか) 詰屈(きつくつ)し
車輪(しゃりん) 之(これ)がために摧(くだ)く
樹木(じゅもく) 何ぞ蕭瑟(しょうしつ)たる
北風(ほくふう) 聲(こえ) 正(まさ)に悲(かな)し
熊羆(ゆうひ) 我(われ)に対(たい)して蹲(うずく)まり
虎豹(こひょう) 路(みち)を夾(はさ)んで啼(な)く
谿谷(けいこく) 人民(じんみん)少(すく)なく
雪落(ゆきお)つること 何(なん)ぞ霏霏(ひひ)たる
頸(くび)を延(の)ばして長歎息(ちょうたんそく)し
遠行()えんこうして 懐(おも)う所(ところ)多(おお)し

現代語訳

北方の太行山に上れば、道は険しく山は高々とそびえている。
羊腸の坂は曲がりくねり、車輪はそのために砕けそうになる。

樹木はさびしげで、風の音はひどくうら悲しい。
熊やヒグマは私に向かってうずくまり、
虎や豹は道の両側から吠えかかる。

渓谷には人の姿も少なく、雪はしんしんと降りしきる。
首を伸ばして長いため息をつく。
はるばる遠征してきたことを思うと愁いはいよいよ増すのだ。

解説

曹操が袁紹の甥高幹を討つために太行山脈を超えた時(206年)の詩です。曹操らしからぬ弱々しげな感じです。

曹操はすでに官渡の戦い(200年)で袁紹軍を破り、袁紹本人も202年に病没していました。

よってこの遠征は残存勢力狩りといった感じで、敵そのものは曹操軍にとって恐れるに足りないものだったと思われます。

しかしさしもの英雄曹操も、寒さという自然の驚異の前には苦戦を強いられたようです。ナポレオンのロシア遠征を思い出さずにはいられません。

ちなみにこの遠征は「三国志演義」にはまったく書かれておらず、この詩も出てきません。

語句

■太行山 山西省南東にある山(Taihang Shan)。切り立った崖や渓谷が多く、古来、関所や要塞が設置されてきた。 ■巍巍 けわしいさま。 ■羊腸の坂 山西省太原県晋陽の北部にある坂。高幹の占拠する壷関口の近く。 ■何ぞ~たる 強調。 ■蕭瑟 寂しい感じ。 ■熊羆 熊やヒグマ。 ■虎豹 虎や豹。 ■霏霏 雪がしんしんと降っているさま。 ■長嘆息 長いためいき(をつく)。 ■遠行 遠征。

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朗読:左大臣光永

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