江南にて李亀年に逢う 杜甫(こうなんにてりきねんにあう とほ)

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江南逢李亀年 杜甫
岐王宅裏尋常見
崔九堂前幾度聞
正是江南好風景
落花時節又逢君

江南にて李亀年に逢う 杜甫
岐王(ぎおう)の宅裏(たくり)尋常に見
崔九(さいきゅう)の堂前(どうぜん)幾度(いくたび)か聞く
正(まさ)に是(こ)れ江南の好風景
落花の時節又君に逢う

現代語訳

岐王(玄宗皇帝の弟)さまのお屋敷の内では何度か拝見しましたし、 崔九さまのお屋敷の前でも幾たびか歌をお聞きいたしました。

江南のこの素晴らしい風景の中、花の散る晩春の季節になって、またばったり貴方にお逢いすることになるとは。

語句

■岐王 玄宗皇帝の弟李範。 ■宅裡 お屋敷。■崔九 崔家の九男・崔滌(さいでき)。玄宗の寵臣。殿中監の職にあった。■堂前 お屋敷の前。

解説

大暦5年(770年)杜甫59歳の作。

李亀年はかつて玄宗皇帝の宮廷に仕えた人気歌手でした。杜甫は少年時代、おそらく父に連れられて貴族の館で李亀年に会い、その歌声に心奪われたのでしょう。

杜甫が44歳でやっと任官がかない下級の役人になった時、李亀年は人気の絶頂でした。名士の前で堂々と歌う李亀年。杜甫はそれをどんなにかまぶしい思いで見ていたことでしょう。

その後安史の乱(755年)が起こり、杜甫はせっかく役人になれたというのに敵に捕らえられてしまいます。この時有名な「春望」がうまれます。そして乱がおさまった後も出世からはほど遠く、各地を転々としました。

一方、李亀年も安史の乱によって人生を狂わされていました。かつての人気歌手は落剥し、各地を放浪していたのです。

杜甫と李亀年がばったり出会ったのは、江南の潭(たん)州(湖南省長沙市)です。同じく放浪の身となった二人は、昔をなつかしんで手を取り合い、涙を流したことでしょう。

個人的に大好きな詩です。特に「落花の時節また、君に逢う」ここはゾクゾクします。「また」を小さく読んでほんの少し「ア」の音を入れる感じで息継ぎするのが、渋くて好きです。

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朗読:左大臣光永

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