詠懐古跡 其五 杜甫

こんにちは。左大臣光永です。最近仕事の合間にウォーキングをするんですが、体力をつけるという他に、目にもいい気がしてきました。眼精疲労にきく感じがありますね。

歩くことによって、体が揺れるので、こう頭蓋骨の中で、目玉がだぶんだぶん揺れて、いい刺激になるようです。

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「法然の生涯」は一時休憩して、10/11日からの配信となります。

本日は杜甫が諸葛亮孔明についての想いを歌った、「詠懐古跡 其五」を、中国語朗読つきでお届けします。

▼音声が再生されます▼

詠懐古跡 其五 杜甫
諸葛大名垂宇宙
宗臣遺像肅清高
三分割拠紆籌策
万古雲霄一羽毛
伯仲之間見伊呂
指揮若定失蕭曹
運移漢祚終難復
志決身殲軍務労

詠懐古跡 其五 杜甫
諸葛の大名(たいめい) 宇宙に垂る
宗臣(そうしん)の遺像(いぞう) 肅(しゅく)として清高(せいこう)
三分割拠(さんぶんかっきょ) 籌策(ちゅうさく)を紆らし
万古(ばんこ) 雲霄(うんしょう) 一羽毛(いちうもう)
伯仲(はくちゅう)の間(かん)に伊呂(いりょ)を見る
指揮 若(も)し定まれば蕭曹(しょうそう)を失(しっ)せん
運移りて漢祚(かんそ)終(つい)に復(ふく)し難く
志(こころざし)は決するも身は殲(つ)きぬ 軍務の労に

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現代語訳

諸葛孔明の名は、あまねく世界に知れ渡っている。
今、廟堂の中の孔明の像は、おごそかに、清らかに、たたずんでいる。

「天下三分の計」に心血を注いで取り組んだ孔明の姿は、
まるで時代を超えて大空を翔る、鳳凰のようだ。

その器量は、殷の伊尹、周の呂尚にも匹敵する。
もし孔明の命令どおり事が行われていたなら、
前漢の名宰相、蕭何も曹参も用なしだろう。

残念ながらすでに蜀の命運は尽きており、
孔明は魏を討つ決意を固めながらも、
軍務の忙しさの中に没してしまったのだが

語句

■諸葛 蜀の丞相諸葛亮孔明。劉備を補佐し後漢王朝の復興を目指したが、劉備没後、宿敵魏との対決を前に、五丈原に病没した。 ■宗臣遺像 重臣(諸葛亮)の像。 ■肅 おごそかなさま。 ■清高 清らかで崇高なさま。  ■三分割拠 黄河流域を治める曹操の魏と、長江下流域を治める孫権の呉に対して、四川の蜀に国を建てようという「天下三分の計」を孔明は劉備に示した。 ■紆籌策 はかりごとをめぐらす。 ■万古 はるか昔から現在、未来まで。永遠。 ■雲霄 雲に翔ける。 ■一羽毛 孔明の偉大さを鳥(鳳凰)に例えた。■伯仲之間「伯」は長男、「仲」は次男で、両者の優劣をつけるのが難しいこと。 ■伊呂 「伊」は湯王を補佐して殷王朝を起こした伊尹(いいん)。「呂」は武王を補佐して周王朝を起こした呂尚(りょしょう、太公望)。 ■蕭曹 漢の劉邦を補佐した蕭何(しょうか)・曹参(そうしん)。 ■漢祚 漢王朝。

解説

「詠懐古跡 五首」は夔州(四川省奉節県)から湖北東南部に到る、長江沿いに点在する、いくつかの古跡について想いを馳せた七言律詩五作からなります。杜甫55歳頃の作品です。

夔州(四川省奉節県)から湖北東南部
夔州(四川省奉節県)から湖北東南部

特にこの「其五」は諸葛亮孔明を歌って、格調高い響きがあります。「天下三分の計」曹操の魏が黄河流域を領有し、孫権の呉が長江下流域を領有する中にあって、遠く四川の蜀の地で、国を建てるという計略を、孔明は劉備に示した。

孔明のその偉大さは、時代を越えて鳳凰のよう翔ける…

「伯仲の間に伊呂を見る 指揮若し定まれば蕭曹を失せん」…後半は孔明の器量を歴史上の人物に並べて、称えます。「伯仲之間」は「伯」が長男で「仲」が次男なので、両者の力が匹敵して甲乙つけがたいこと。

「伊呂」は湯王を補佐して殷王朝を起こした伊尹と武王を補佐して周王朝を起こした呂尚(りょしょう、太公望)。孔明の偉大さは、それら古の名宰相にも匹敵する。

もし孔明の指揮通り行われていたなら、漢の劉邦を補佐した蕭何(しょうか)・曹参(そうしん)も必要なくなるだろう。

しかし…歴史の流れは移ってしまい、孔明の悲願であった漢王朝の復興はならなかった。宿敵・魏を打つ決意を孔明は固めながらも、軍務のさなか、その身は尽きてしまった…

(劉備没後、息子の劉禅を立て、孔明は魏との最終決戦にのぞむべく北伐を開始するも、五丈原にて、志なかばに病没します。時に234年。孔明54歳)

孔明の命は失われ蜀の国は滅びたが、その志は、今日まで伝わっている。ああ…!なんと偉大なること!杜甫の、孔明に対する熱い思いが伝わってくる詩です。

孔明が五丈原で病に倒れたのは54歳の時。杜甫がこの詩を書いたのは55歳の時です。

「ずっと尊敬してきましたが、とうとう貴方より年上になってしまいましたよ」

…そんな感慨も、あったかもですね。

「星落秋風五丈原」は明治の詩人土井晩翠による、孔明五丈原に死すの場面を歌った長い詩です。その結びには、杜甫の「詠懐古跡 其五」が強く意識されています。

嗚呼五丈原秋の夜半 あらしは叫び露は泣き
銀漢清く星高く 神秘の色につつまれて
天地微かに光るとき 無量の思齎(もた)らして
「無限の淵」に立てる見よ 功名いづれ夢のあと
消えざるものはただ誠 心を尽し身を致し
成否を天に委ねては 魂遠く離れゆく

高き尊きたぐいなき 「悲運」を君よ天に謝せ
青史の照らし見るところ 管仲楽毅たそや彼
伊呂の伯仲眺むれば 「万古の霄(そら)の一羽毛」
千仭(せんじん)翔くる鳳(ほう)の影 草廬(そうろ)にありて龍と臥し
四海に出でて龍と飛ぶ 千載の末今も尚
名はかんばしき諸葛亮

という、土井晩翠の「星落秋風五丈原」です。この結びのあたりに、「伊呂の伯仲眺むれば」とか「万古の霄(そら)の一羽毛」とか、杜甫の詩が強く意識されています。

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本日も左大臣光永がお話しました。ありがとうございます。ありがとうございました。

朗読:左大臣

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