金州城下作 乃木希典(きんしゅうじょうかのさく のぎまれすけ)

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金州城下作 乃木希典
山川草木轉荒涼
十里風腥新戰場
征馬不前人不語
金州城外立斜陽

金州城下(きんしゅうじょうか)の作(さく) 乃木希典(のぎまれすけ)
山川草木(さんせんそうもく) 転(うた)た荒涼(こうりょう)
十里(じゅうり)風(かぜ)腥(なまぐさ)し 新戦場(しんせんじょう)
征馬(せいば)前(すす)まず 人(ひと)語(かた)らず
金州城外(きんしゅうじょうがい) 斜陽(しゃよう)に立(た)つ

現代語訳

山も川も草も木も、ひたすら荒れ果てて見る影も無い。
先日戦が行われたこの場所では、十里に渡って風が血なまぐさく感じられる。

軍馬は進まず、将兵たちは押し黙っている。
夕陽が傾く金州城外に、私はただ立ちつくす。

語句

■轉 うたた。転。ひたすら。いよいよ。 ■征馬 軍馬。 ■斜陽 夕陽。

解説

乃木希典は明治37年6月7日、第三軍司令官として金州城、南山の激戦地を視察します。【金州】は旅順の北方の町です。

同年5月25日から翌日にかけて、南山では奥保鞏(おくやすかた)の第二軍がロシア軍を旅順方面に壊走させていました。この戦いで希典の長男、陸軍歩兵中尉乃木勝典(のぎ かつすけ)は戦死しています。

「金州城下作」はその視察の際に希典が幕僚たちに示した詩です。呆然と立ち尽くしている感じが伝わってきます。

乃木希典(1849-1912)。明治時代の軍人。長州藩出身。西南戦争(明治10)では西郷軍と戦い連隊旗を奪われる。日露戦争では第三軍司令官として旅順を攻略。明治天皇の大葬の日に婦人とともに殉死。

司馬遼太郎は小説『坂の上の雲』で乃木希典を無能の極みのように描いています。

短編『殉死』では明治天皇崩御に際して殉死する乃木希典を、突き放したような、冷淡な筆致で描いています(司馬遼太郎作品の中でこれほど陰鬱で、楽しくない作品は他にないです)。

こうした司馬遼太郎の描きっぷりが「乃木希典=無能」というイメージの元になっている部分は大きいようです。

最近では「乃木希典=無能」説への疑問も出てきています。

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朗読:左大臣光永

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