帰去来辞 陶淵明(ききょらいのじ とうえんめい)

「帰去来の辞」は、陶淵明が41歳の時、いよいよ役人生活がイヤになって田舎に引きこもる、 その時の気持ちを歌ったものです。

朗読をきくには?

  • メールアドレスを入力して、「朗読をきく」を押してください。すぐに専用ページにアクセスできるurlをメールでお届けします。 すべての朗読音声を無料でお聴きいただけます。
    声はこんな感じです。




  • 携帯電話のアドレスには届きません。携帯電話のアドレスを入力しないでください。

  • メールマガジンの読者サービスとして無料公開するものです。後日メールマガジン「聴いて、わかる。古典・歴史の名場面」をお送りさせていただきます。すべて無料でいつでもこちらから解除できます。

  • 当無料ファイル送付とメルマガ配信以外にメールアドレスを使うことはありません。第三者に開示することはありません。


歸去來辭
歸去來兮
田園將蕪胡不歸
既自以心爲形役
奚惆悵而獨悲
悟已往之不諫
知來者之可追
實迷途其未遠
覺今是而昨非
舟遙遙以輕アガリ
風飄飄而吹衣
問征夫以前路
恨晨光之熹微

帰去来の辞
歸去來兮(かえりなんいざ)
田園 将に蕪れなんとす 胡(なん)ぞ帰らざる
既に自ら心を以て形の役と爲す
奚(なん)ぞ惆悵として獨り悲しむ
已往の諫むまじきを悟り
来る者の追ふ可きを知る
実に途に迷ふこと其れ未だ遠からず
今の是にして昨の非なるを覚りぬ
舟は遙遙として以て輕く上がり
風は飄飄として衣を吹く
征夫に問ふに前路を以ってし
晨光の熹微なるを恨む

現代語訳

さあ故郷へ帰ろう。

故郷の田園は今や荒れ果てようとしている。
どうして帰らずにいられよう。

今までは生活のために心を押し殺してきたが、
もうくよくよしていられない。

今までが間違いだったのだ。
これから正しい道に戻ればいい。

まだ取り返しのつかないほど大きく道をはずれたわけではない。
やり直せる。

今の自分こそ正しく、
昨日までの自分は間違いだったのだ。

舟はゆらゆら揺れて軽く上下し、
風はひゅうひゅうと衣に吹き付ける。

船頭に故郷までの道のりを訪ねる。
(行き合わせた旅人に行き先を訪ねる)
朝の光はまだぼんやりして、よく先が見えないのが ツライところだ。


【歸去來兮】 【歸去】が帰ること。【來】は添え字。
【兮】は語調を整える言葉。
伝統的に「かえりなん、いざ」と読む。

【田園將蕪】 (故郷の田園が)今にも荒れ果てようとしている。
【胡不歸】 どうして帰ろうとしないのか。反語。

【以心爲形役】 精神を肉体の奴隷にする。
イヤイヤ役人生活をしていたことを指す。

【奚】 なんぞ。どうして~しないのか。反語。
【惆悵】 ちゅうちょう。くよくよと嘆き悲しむこと。

【已往】 過去。 【來者】 未来。
【征夫】 旅人。舟に乗り合わせた客か、船頭か? 
【前路】 旅の前途。

【晨光】 朝の光。 【熹微】 微かであること。


乃瞻衡宇
載欣載奔
僮僕歡迎
稚子候門
三逕就荒
松菊猶存
攜幼入室
有酒盈樽
引壺觴以自酌
眄庭柯以怡顏
倚南窗以寄傲
審容膝之易安
園日渉以成趣
門雖設而常關
策扶老以流憩
時矯首而游觀
雲無心以出岫
鳥倦飛而知還
景翳翳以將入
撫孤松而盤桓

乃ち 衡宇を瞻(み)て
載ち欣び 載ち奔る
僮僕は歡び迎へ
稚子 門に候(ま)つ
三径は荒に就(つ)き
松菊は猶お存せり
幼を携えて室に入れば
酒有って樽に盈てり
壺觴を引いて以て自ら酌み
庭柯を眄(み)て以て顏を怡ばしむ
南窓に倚りて以て寄傲し
膝を容るるの安んじ易きを審らかにす
園は日に渉って以て趣を成し
門は設くと雖も常に関せり
扶老にを策(つえつ)きて以て流憩し
時に首を矯げて游觀す
雲は心無くして以て岫を出で
鳥は飛ぶに倦きて還るを知る
景は翳翳として以て將に入らんとし
孤松を撫でて盤桓す

現代語訳

やがてみすぼらしい我が家が見えてくると、
喜びで胸がいっぱいになり、駆け出した。

召使は喜んで私を迎えてくれる。
幼子は門の所で待ってくれている。

庭の小道は荒れ果てているが、
松や菊はまだ残っている。

幼子を抱えて部屋に入ると、
樽には酒がなみなみと用意されている。

徳利と杯を引き寄せて手酌し、
庭の木の枝を眺めていると、
顔が自然にニヤケてくる。

南の窓に寄りかかってくつろいでいると、
狭いながらも我が家はやはり居心地がいい、
そんな気持ちにさせられる。

庭園は日に日に趣が増してくる。
門はあるが常に閉ざしていて
訪ねてくる者もいない。

杖をついて散歩し、
時に立ち止まって遠くを眺める。

雲は峰の間から自然に湧き出してくる。
鳥は飛び飽きて巣に戻って行く。

あたりがほの暗くなって、もう日が暮れようとしている。
庭に一本立った松を撫でたりしながら、私はうろついている。

歸去來兮
請息交以絶遊
世與我以相遺
復駕言兮焉求
悅親戚之情話
樂琴書以消憂
農人告余以春及
將有事於西疇
或命巾車
或棹孤舟
既窈窕以尋壑
亦崎嶇而經丘
木欣欣以向榮
泉涓涓而始流
羨萬物之得時
感吾生之行休

歸去來兮(かへりなんいざ)
請う 交りを息(や)めて以て遊を絶たん
世と我とは相ひ違えるに
復た言(ここ)に駕して焉(なに)をか求めんとする
親戚の情話を悦び
琴と書とを樂しんで以て憂ひを消さん
農人 余れに告ぐるに春の及ぶを以てし
将に西疇に事有らんとす、と
或は巾車に命じ
或は孤舟に棹さす
既に窈窕(ようちょう)として以て壑(たに)を尋ね
亦た崎嶇(きく)として丘を経(ふ)
木は欣欣(きんきん)として以て栄ゆるに向かい
泉は涓涓(けんけん)として始めて流る
万物の時を得たるを善みして
吾が生の行々休せんとするを感ず

現代語訳

さあ故郷へ帰ろう
俗世間と交わるのは、もうよそう。

世間と私とは最初から相容れないものだったのだ。
いまさらまた任官して、どうしようというのか。

親戚の人々との心のこもった話を楽しみ、
琴を奏でて書物を読んで…
そうしていれば憂いは消え去る。

農夫がやってきて私に告げる。
そろそろ春ですね、
西の畑では仕事が始まりますと。

ある時は幌車を出すように命じ、
ある時は小舟に乗って田んぼに出かける。

奥深い谷に降りたり、
けわしい丘に登ったりする。

木は活き活きと生い茂り、
泉はほとばしって流れていく。

万物が時を得て栄える中、
私は自分の生命が少しずつ、
終わりに近づいているのを感じるのだ。

已矣乎
寓形宇内復幾時
曷不委心任去留
胡爲遑遑欲何之
富貴非吾願
帝鄕不可期
懷良辰以孤往
或植杖而耘シ
登東皋以舒嘯
臨淸流而賦詩
聊乘化以歸盡
樂夫天命復奚疑

已(やん)ぬるかな
形を宇内(うだい)に寓する 復た幾時ぞ
曷(なん)ぞ心を委ねて去留に任せざる
胡爲れぞ遑遑として何くに之かんと欲する
富貴は吾が願いに非ず
帝郷は期す可からず
良辰を懐うて以て孤り往き
或は杖を植(た)てて耘シ(うんし)す
東皋に登り 以て舒(おもむろ)に嘯(うそぶ)き
清流に臨みて詩を賦す
聊(いささ)か化に乗じて以て尽くるに帰し
夫の天命を楽しんで復た奚(なに)をか疑はん

現代語訳

まあ仕方の無いことだ。
人間は永久には生きられない。命には限りがある。

どうして心を成り行きに任せないのか。
そんなに齷齪して、どこへ行こうというのか。

富や名誉は私の願いではない。
かといって仙人の世界、などというのも
アテにならない。

天気のいい日は一人ぶらぶらし、
傍らに杖を立てておいて、畑いじりをする。

東の丘に登ってノンビリ笛を吹き、
清流を前にして詩を作る。

自然の変化に身をゆだね、
死をも、こころよく受け容れる。

こんなふうに天命を受け容れてしまえば、
もはや何のためらいも無いだろう。

朗読:左大臣

朗読をきくには?

  • メールアドレスを入力して、「朗読をきく」を押してください。すぐに専用ページにアクセスできるurlをメールでお届けします。 すべての朗読音声を無料でお聴きいただけます。
    声はこんな感じです。




  • 携帯電話のアドレスには届きません。携帯電話のアドレスを入力しないでください。

  • メールマガジンの読者サービスとして無料公開するものです。後日メールマガジン「聴いて、わかる。古典・歴史の名場面」をお送りさせていただきます。すべて無料でいつでもこちらから解除できます。

  • 当無料ファイル送付とメルマガ配信以外にメールアドレスを使うことはありません。第三者に開示することはありません。


発売中

漢詩朗読・解説CD-ROM「漢詩でたどる中国史」(CD-ROM版)

漢詩でたどる中国史(CD-ROM版)ジャケット絵

壮大な中国史の流れに沿って、 時代時代の代表的な名句ばかりを採り上げました。

日替わりでサンプル音声を配信中。毎日ちがう感動をお届けします。

漢詩朗読・解説CD-ROM「漢詩でたどる中国史」の詳細はこちら

このページの先頭へ