悼柔石 魯迅(じゅうせきをいたむ ろじん)

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悼柔石 魯迅
慣於長夜過春時
挈婦將雛鬢有絲
夢裏依稀慈母涙
城頭變幻大王旗
忍看朋輩成新鬼
怒向刀叢覓小詩
吟罷低眉無冩處
月光如水照緇衣

柔石(じゅうせき)を悼(いた)む 魯迅(ろじん)
長夜(ちょうや)に慣(な)れて春時(しゅんじ)を過(す)ごし
婦(つま)を挈(たずさ)え雛(こ)を將(ひきい)て鬢(びん)に絲(しらが)あり
夢裏(むり)に依稀(いき)たり慈母(じぼ)の涙(なみだ)
城頭(じょうとう)に変幻(へんげん)す 大王(だいおう)の旗(はた)
看(み)るに忍(しの)びんや 朋輩(ほうはい)の新鬼(しんき)と成(な)るを
怒(いか)って刀叢(とうそう)に向(む)かって小詩(しょうし)を覓(もと)む
吟(ぎん)じ罷(おわ)って眉(まゆ)を低(た)れ 写(うつ)す処(ところ)無(な)し
月光(げっこう)は水(みず)の如(ごと)く緇衣(しい)を照(て)らす

現代語訳

いつ明けるとも知れない長夜を逃げまとう生活にも慣れてしまった。
そんな中、春は過ぎていく。

妻子を連れて逃亡生活を送っているうちに髪の毛には白いものが混じりはじめた。

夢の中にほのかに浮かぶ、優しい母の涙…。
城郭の壁の上には暴君の旗がひらめいている。

若い友人がむごたらしく殺されたのだ。どうして冷静に見ていられよう!
怒って刀の群れに向かって小詩を求めた。

できた詩を吟じ終わって眉をたれる。詩を作ったとて発表する場も無いのだ。

月光は水のごとく私の黒い衣を照らしている。

語句

■柔石 北京大学における魯迅の教え子。小説家。共産主義者。蒋介石の国民党政府に銃殺された。 ■雛 幼子。 ■大王 国民党政府の首領蒋介石のこと。 ■新鬼 最近の死者。 ■刀叢 刀が並んでいる状態。 ■緇衣 墨染の衣。

解説

魯迅(1881-1936)。本名は周樹人(しゅうじゅじん)。字は豫才。浙江省紹興市出身。

「魯迅」は筆名のうちもっとも有名なもの。『阿Q正伝』『狂人日記』の作者として有名。

医者を志して日本に留学し仙台医学専門学校に学んだが、日本滞在中に文学に転向。仙台留学時代の魯迅を描いた作品に、太宰治『惜別』があります。

この「柔石を悼む」は、蒋介石の国民党政府によって銃殺された若い左翼作家、柔石を悼んでつくられたものです。

侘しさ、懐かしさ、悲しみ、怒り、やるせなさ…感情の起伏がハッキリした詩です。たいへん朗読向きです。

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朗読:左大臣光永

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