「人生七十古来稀なり」(「曲行」)杜甫

曲江 杜甫

朝回日日典春衣
毎日江頭尽酔帰
酒債尋常行処有
穿花蛺蝶深深見
点水蜻點款款飛
点水蜻テイ款款飛
伝語風光共流転
暫時相賞莫相違

曲江 杜甫

朝(ちょう)より回(かえ)りて日日に春衣(しゅんい)を典(てん)し
毎日江頭(こうとう)に酔を尽くして帰る
酒債(しゅさい)は尋常 行く処(ところ)に有り
人生七十 古来稀なり
花を穿(うが)つ蛺蝶 深深(しんしん)として見え
水に点ずる蜻點(せいてい) 款款(かんかん)として飛ぶ
伝語す 風光共に流転す
暫時(ざんじ) 相賞して相違(たが)う莫(なか)れと

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現代語訳

毎日朝廷の仕事が終わると春着を質屋に入れ、
その金で曲江のほとりで酩酊するまで飲んで、帰ってくる。

飲み代のツケはほうぼうにあるが、かまうものか。
どうせ七十歳まで生きられることは稀なのだ。

花の蜜を吸うアゲハチョウが花々の奥深くに見え、
トンボは水に尾を点々と触れながらゆるやかに飛んでいく。

この素晴らしい景色に対し、言いたい。すべて自然は移り変わっていく。
だからほんのしばらくでもいい。
お互いに賞して、背きあうことがないようにしよう。

語句

■曲江 長安の東南にあった池。行楽地。 ■朝回 朝廷より帰る。 ■典 質入れする。 ■江頭 曲江のほとり。 ■酒債 酒の借金。 ■尋常 行く所どこにでも。 ■穿花 花の間に入りこむ。 ■蛺蝶 アゲハ蝶。 ■点水 水に尾をつける。 ■蜻點 とんぼ。 ■款款 のんびり、ゆるやかなさま。 ■伝語 伝言する。 ■相違 お互いに背き合う。

解説

758年、47歳の杜甫は長い間の念願であった朝廷での仕事にありつきました。

念願の出仕でしたが、左遷された宰相房琯を弁護したことで皇帝粛宗の怒りに触れ、翌年華州の司功参軍(しこうさんぐん)の職に左遷されます。

あああ人生うまくいかない。つくづく俺は、世渡りが下手だなあ。

そんな、杜甫のボヤキも聞こえてきそうな詩です。

借金してまで酒ばかり飲んでいるヤケッパチな感じが、晩春の景色の上に投影されています。

花の奥深くに蜜を吸うアゲハチョウ、ゆったり飛ぶ蜻蛉。なにげない晩春の景色を描きながら、杜甫の心理を重ね合わせ、しみじみと味わいがあります。

第四句の「人生七十古来稀なり」は「古稀」という言葉の出典です。

朗読:左大臣