登岳陽楼 杜甫(がくようろうにのぼる とほ)

こんにちは。左大臣光永です。

牛乳のパッケージに載ってる「製造所所在地」をふと見ると、宇都宮の工業団地の503とありえっ?「503」?団地の一室で作ってんの?団地の503号室から全国に出荷してんの?そう思ってグーグルマップで調べたら、明治乳業のちゃんとした工場でした。その建物全体が、「5-3」という建物、ということのようです…

さて、先日発売しました「中国語朗読つき 李白 詩と生涯」
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杜甫「岳陽楼に登る」です。中国語つきでお届けします。

↓↓↓音声が再生されます↓↓

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登岳陽楼 杜甫
昔聞洞庭水
今登岳陽楼
呉楚東南坼
乾坤日夜浮
親朋無一字
老病有孤舟
戎馬關山北
憑軒涕泗流

岳陽楼(がくようろう)に登る 杜甫
昔聞く洞庭(どうてい)の水、
今登る岳陽楼。
呉楚(ごそ)東南に坼け、
乾坤(けんこん)日夜浮かぶ。
親朋(しんぽう)一字無く、
老病(ろうびょう)孤舟(こしゅう)あり。
戎馬(じゅうば)関山(かんざん)の北、
軒(けん)に憑(よ)れば涕泗(ていし)流る。

夔州から岳州へ
夔州から岳州へ

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現代語訳

かねて噂に聞いていた洞庭湖を訪れ、そのほとりの岳陽楼に登る。

呉楚の東南の地方が二つに裂けたという洞庭湖には、宇宙のすべてが一日中浮かんでいるようだ。

手紙をくれるような親類も友達もなく、老いて病持ちの私には持ち物といっても小舟が一双あるだけだ。

関山の北ではまだ今も戦が続いているという。

楼のてすりに寄りかかっていると、涙が流れてくる。

語句

■岳陽楼 洞庭湖の東北端。岳州県城西門の楼。洞庭湖を見下ろし風光明美。 ■洞庭水 湖南省北部の中国第二の湖(第一は青海湖)。■呉楚 春秋時代の国の名前。「呉」は現在の江蘇・浙江省、「楚」は湖北・湖南省。その東南部分が裂けて洞庭湖ができたという。 ■乾坤 天地。 ■親朋 親類や友達。 ■無一字 一字の便りも無い。 ■老病 老いて病気がちの我が身。 ■孤舟 ただ一双の舟。柳宗元「江雪」に「孤舟蓑笠翁」とある。 ■戎馬 軍馬。戦争のこと。 ■関山 関所や山。 ■軒 手すり。欄干。 ■涕泗 涙。

解説

大暦3年(768年)、杜甫57歳の作。杜甫が二年間滞在した夔州(四川省奉節県)を出発し、長安を目指していた途中立ち寄った岳州(湖南省岳陽県)での経験を詠んだ詩です。

夔州から岳州へ
夔州から岳州へ

洞庭湖は湖南省北東部の景勝で、いろいろな詩に詠まれています。岳陽楼は洞庭湖の東岸、岳陽城の正門に建つ三層の楼台です、洞庭湖を見下ろします。

孟浩然の「洞庭湖を望んで張丞相に贈る」と杜甫のこの「登岳陽楼」が、洞庭湖をうたった詩の双璧とされます。

前半は洞庭湖の壮大なながめ。後半は大自然の中にあって、みじめな己の姿と孤独な心中を描きます。それでも杜甫の詩は個人的な内面描写にとどまらず、最後には天下国家のこと、戦争が続いているという話につながっていきます。

すでに安史の乱は終結(763)していますが、各地で小規模な反乱が続いていました。そして、この年の8月、吐蕃(とばん、チベット)が長安の西、鳳翔(ほうしょう)に攻め入ってきます。

この2年後、杜甫は洞庭のあたりを放浪し、ふたたび岳州へ向かう途中、亡くなりました。、舟の上で死んだというのは一つの伝説です。

松尾芭蕉は『おくのほそ道』の冒頭に杜甫を念頭に置いてこう書いています。

月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして旅を栖とす。

「舟の上に生涯をうかべ」の一節は、旅の途上、舟の上で死んだといわれる杜甫を念頭に置いていると思われます。同じく『おくのほそ道』松島の章では、

仰(そもそも)ことふりにたれど、松島は扶桑第一の好風にして、凡(およそ)洞庭・西湖を恥ず。東南より海を入て、江の中三里、浙江の潮(うしお)をたゝふ。

松島の景観を洞庭湖になぞらえます。

また『幻住庵の記』では、滋賀県大津市の国分山から見下ろす琵琶湖の景色を、杜甫の「岳陽楼に登る」を引用しながら、洞庭湖になぞらえます。

魂、呉・楚東南に走り、身は瀟湘・洞庭に立つ。山は未申にそばだち、人家よきほどに隔たり、南薫(なんくん)峰よりおろし、北風湖(うみ)を浸して涼し。

杜甫を出発点として芭蕉に踏み込んでいく。あるいは芭蕉をきっかけとして杜甫の詩を読んでみるのも、楽しいと思います。


もう一首、洞庭湖を詠んだ歌の双璧とされるのがこの詩です。

望洞庭湖贈張丞相 孟浩然
八月湖水平
涵虚混太淸
氣蒸雲夢澤
波撼岳陽城
欲濟無舟楫
端居恥聖明
坐觀垂釣者
徒有羨魚情

洞庭湖に望みて張丞相に贈る 孟浩然
八月 湖水は平らかに
虚を涵(ひた)して太清(たいせい)に混ず
気は蒸す 雲夢(うんぼう)の沢
波は撼(ゆる)がす 岳陽城
済(わた)らんと欲するも舟楫なく
端居して聖明に恥ず
坐(そぞろ)に釣を垂るる者を観て
徒らに魚を羨むの情あり

現代語訳

八月の洞庭湖の水はまっ平らで、
大空をひたして水と天が溶け合っているようだ。

雲夢の沢で水蒸気が蒸し、
波は岳陽城の城郭をゆるがしている。

この水を渡ろうとするも舟もかじも無く、
この聖明の世に無為徒食の自分の身を恥じ、じっと座っている。

ぼんやりと釣り人を眺めていると、
こんな私でも魚を釣りたい気持が起こってくる

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本日も左大臣光永がお話しいたしました。
ありがとうございます。ありがとうございました。

朗読:左大臣