菅原道真「七月七日、牛女に代わりて暁更を惜しむ」

本日は、七夕も近づいてまいりましたので、菅原道真公の漢詩「七月七日、牛女(ぎゅうじょ)に代(か)わりて暁更(ぎょうこう)を惜(お)しむ、各(おのおの)一字(いちじ)を分(わ)かつ、応製(おうせい)」をお送りします。

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七月七日、代牛女惜暁更、各分一字、應製 探得程字 菅原道真
年不再秋夜五更
料知靈配曉來情
露應別涙珠空落
雲是殘粧髻未成
恐結橋思傷鵲翅
嫌催駕欲啞鶏聲
相逢相失間分寸
三十六旬一水程

七月七日、牛女(ぎゅうじょ)に代(か)わりて暁更(ぎょうこう)を惜(お)しむ、各(おのおの)一字(いちじ)を分(わ)かつ、応製(おうせい) 探(さぐ)りて程(てい)の字(じ)を得(え)たり 菅原道真
年再(としふたた)び秋(あき)ならず 夜五更(よるごこう)
料(はか)り知(し)る霊配(れいはい)の曉来(あかつき)の情(こころ)
露(つゆ)は別(わか)れの涙(なみだ)なるべし 珠空(たまむな)しく落(お)つ
雲(くも)は是(こ)れ残粧(ざんしょう) 髻未(もとどりいま)だ成(な)らず
橋(はし)を結(むす)ばんことを恐(おそ)れては鵲(かささぎ)の翅(はね)を傷(やぶ)らんと思(おも)う
駕(のりもの)を催(うなが)さんことを嫌(きら)いては鶏(かけ)の声(こえ)を唖(おし)ならしめんとす
相逢(あいあ)いて相失(あいうしな)う 間分寸(あいだぶんすん)
三十六旬(さんじゅうろくじゅん) 一水(いっすい)の程(ほど)

現代語訳

七月七日、牽牛・織女に代わって夜明けを惜しむ、各人一字ずつ分けて、天皇の命令に応じてよんだ くじで「程」の字を引き当てた

一年のうちに七夕の秋はもうめぐってこない。夜明けがきた。

牽牛・織女の二人がどんな気持ちで暁の別れを惜しんだか、よくわかる。

露は二人の別れの涙であろう。真珠のように空しく落ちる。

雲は寝乱れた織女の乱れた粧い、髷も調えていない、その姿のようだ。

鵲が織女が帰っていくための橋を天の川にかけることを怖れて、その羽を傷つけようとまで思う。

鶏が声を上げて織女の乗物をせかせることを嫌って、黙らせようとまでする。

牽牛と織女が逢ってから別れるまで、ゆるされた時間はごくわずか。
それからまた一年間、一筋の天の川で隔てられてしまうのだ。

語句

■牛女 牽牛と織女。七夕の二人。 ■暁更 明け方。 ■應製 天皇の命に応えての作。 ■探得程字 探韻の結果、「程」の字を引き当てたの意。探韻はくじで一人一時ずつ詩に用いる韻字を決めること。 ■五更 明け方。「更」は夜の時間を5つに分けた単位。 ■料知 推し量って知る。 ■霊配 つがいの神。牽牛と織女。「霊匹(れいひつ)」とも。 ■暁来 暁月。「来」は助字。 ■珠空落 涙を真珠に見立てる。 ■残粧 崩れた粧い。 ■髻未成 寝乱れて崩れた髷を調え直していない状態。 ■恐結橋 鵲が織女が帰っていくための橋をなすこと。中国の伝承。 ■傷鵲翅 鵲の羽が傷んで飛べなくなり、織女を運べなくなることを望んでいる。中国の七夕伝承では織女が鵲に乗って牽牛を訪ねる。日本では通い婚の風習により牽牛が織女のもとに向かう。 ■催駕 鶏が鳴いて、乗物に「早く出せ」と促すこと。 ■相逢相失 「相」は互いにの意の助字。「失」は別れる意。 ■分寸 一分一寸。ほんの少し。 ■三十六旬 三百六重日。一年。 ■一水 一すじの水流。

宇多天皇主催で宮中で行われた七夕の宴での作。『菅家文草』から、寛平四年(892)七月七日の作とわかる。

菅原道真についての記事

九月十日
https://kanshi.roudokus.com/kugatsutooka-michizane.html

詩情怨<古詩十韻>呈菅著作、兼視紀秀才
http://kanshi.roudokus.com/Shijyouen.html

阿満を夢む
http://kanshi.roudokus.com/Amaro.html

不出門
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菅原道真の生涯
http://history.kaisetsuvoice.com/Michizane1.html

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