金陵の酒肆にて留別す 李白

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金陵酒肆留別 李白
白門柳花滿店香
吳壓酒喚客嘗
金陵子弟來相送
欲行不行各盡觴
請君問取東流水
別意與之誰短長

金陵(きんりょう)の酒肆(しゅし)にて留別す 李白
白門(はくもん)の柳花(りゅうか) 満店(まんてん)香(かんば)し
呉姫(ごき) 酒を圧して客(かく)に嘗(な)めしむ
金陵(きんりょう)の子弟(してい) 来(きた)りて相(あい)送り
行(ゆ)かんと欲して行かず 各(おのおの)觴(さかずき)を盡(つく)す
請(こ)う 君 問取(もんしゅ)せよ 東流(とうりゅう)の水に
別意(べつい)と之(これ)と誰(いずれ)か短長(たんちょう)と

現代語訳

金陵の居酒屋にて詩を書いて別れる

金陵の街の柳のワタが店いっぱいに香っている。
呉の地方の娘が酒をしぼって客を呼んで味見させる。
金陵の若者たちが来て、私を送ってくれる。
出発しようとして、なかなか出発できない。めいめい盃を飲み干す。
君よ。尋ねておくれ。東に流れる水に。
別れの思いと、この長江の水と、どちらが長いか短いかと。

語句

■金陵 現江蘇省南京市。東の郊外の紫金山(しきんさん)または鍾山(しょうざん)を金陵山とも言うことから。また楚の威王が、立ち上る王気を鎮めるために金を埋めたという故事から。三国時代、呉の孫権が都を置き建業と称した。南朝の晋・宋・斉・梁・陳は、皆ここを都とした。隋の代はすたれるが唐代に復活。 ■酒肆 居酒屋。 ■留別 旅立つ人が詩を書き残して別れること。 ■白門 金陵の西の門。南京市の雅名。「風吹」になっているテキストもある。 ■柳花 柳絮(りゅうじょ)。柳のワタ。柳の種の上に綿状の毛がつき、初夏に熟すると風に吹かれてふわふわと飛ぶ。その様子を花に見立てて言う。 ■呉姫 呉(現南京や蘇州)の地方の娘。 ■圧酒 新しく醸した濁り酒をしぼって清酒にすること。 ■嘗 味見をさせる。 ■子弟 若者たち。 ■問取 たずねる。 ■之 長江の水の流れをさす。

解説

金陵は現在の南京。三国時代の呉が首都を置いて以来、南朝の国々もこの地に首都を置きました。歴史と伝統のある町で、李白はたいへん気に入っていました。

この詩は金陵に立ち寄った李白が、旅立つにあたって、居酒屋で若者たちと別れの盃を酌み交わしている場面です。

居酒屋のむせるような熱気、呉の娘や金陵の若者たちの、若々しいエネルギー。それらが活き活きと伝わってきます。

李白先生、詩とはどう作るものでしょうか?ははは、それは酒の勢いに任せてこう、書きつけるのだ!さすが先生!そんな、李白と若者たちとの勢いある会話もきこえてきそうな詩です。

李白の情に篤い、感激屋なところが出ていて、微笑ましいです。また、だからこそ、別れの寂しさが、いっそう切実に、迫ってきます。

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朗読:左大臣光永

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