よくわかる漢詩の知識(三)平仄とは?

こんにちは。左大臣光永です。本日はなぜか秋の風情ただよう一日でした。激しい風が吹いてるんですが、その風が冷ややかで、日差しも妙に赤々として秋っぽく、今は6月なのに、どうしちゃったの?て感じでした。

さて。

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これにあわせて、しばらく漢詩の話題をお届けします。本日は「よくわかる漢詩の知識(三)平仄」です。

↓↓↓音声が再生されます↓↓

http://roudoku-data.sakura.ne.jp/mailvoice/KanshiSemi03.mp3

第一回、第二回はずーーっと以前、3年も前に、配信しました。大黄河の流れのようにゆったりした時を生きる左大臣光永でございます。こちらもあわせてお聴きくだい。

第一回「絶句」
http://kanshi.roudokus.com/KanshiSemi01.html

第二回「律詩」
http://kanshi.roudokus.com/KanshiSemi02.html

「平仄(ひょうそく)」。

日本語書き下しで漢詩を味わう上ではあまり必要がない知識です。どちらかというと、漢詩を作る側の話です。

しかし、平仄の知識をいちおう頭の片隅に留めておくと…

「ああ漢詩ってこういう考え方で作られてるんだな」と、漢詩の舞台裏がわかり、漢詩の味わいもいっそう増すはずです。

平仄とは?

中国語の漢字には一字一字音があり、上がったり下がったりというリズムがあります。この音のことを「(いん)」といい、リズムのことを「声調(せいちょう)」といいます。声調は5世紀ごろまでに四つに分類されました。

平声(ひょうしょう)
上声(じょうしょう)
去声(きょしょう)
入声(にっしょう)

の四つです。これらを四声(しせい)といいます。

ここで注意すべきことは、現代中国語の「四声」とは全然、別物だ、ということです。

中国語の教科書には必ず最初に出てきますよね。四声。マーマーマーマー。あの現代中国語における「四声」と漢詩の「四声」はまったく別物です。

だから現代中国語を学んでもそれだけでは漢詩は読めないし、現代中国語で漢詩を読んだとしても本来の漢詩とは違うリズムになります。

では漢詩における「四声」はどんなリズムなのか?

わからないんですね。

正確な漢詩の声調は残っていないので、どう発音したか、不明です。

しかしだいたいの所を言えば、

平声(ひょうしょう)…低く平らな調子

上声(じょうしょう)…低音から高音に上がる調子

去声(きょしょう)…高音から低音に下がる調子

入声(にっしょう)…つまる調子

ということだったようです。

このうち、「平声」を「(ひょう)」に分類し、「平声」以外の上声、去声、入声を「(そく)」に分類します。

これが「平仄(ひょうそく)」です。

繰り返します。

四声は平声、上声、去声、入声の四つがあり、このうち平声を「平」に分類し、「平声」以外の上声、去声、入声を「仄(そく)」に分類します。

これが「平仄(ひょうそく)」です。

漢詩はこの「平」と「仄」を組み合わせることによって複雑で美しいリズムを生み出します。

そして長い年月にわたって、「平」と「仄」をどのように組み合わせれば、美しいリズムになるのか?研究が重ねられ、厳密なルールが定められました。

だから、漢詩の言葉は日本の俳句や和歌のように思いのままに言葉を並べればいいのではなくて、かなり厳密なルールが決まっています。

正しく漢詩を作るためには、そのルールを知る必要があるわけです。

その出発点が、平仄を知ることです。

平仄の調べ方

一つの漢字には必ず一つ以上の「声調」があり、その「声調」によって「平仄」が決まります。

だからまずある漢字が、どの「声調」に属するのか?

知る必要があります。

じゃあどうしたらいいのか?

漢詩の「四声」はもう失われてしまって、どういうものかわからないのに。

どうやって調べたらいいのか?

これはカンタンで。

漢和辞典に載ってます。

漢和辞典を開くと、題目となる漢字「親字(おやじ)」の下に、音読み・訓読みがあって、その下に四角形が書いてあります。

よく見るとこの四角形の一つの角に、印がついています(漢和辞典の種類によってデザインは違いますが、基本的な書き方は共通しています)。

この印によって、四声の別をあらわします。

左下から時計回りに、平声(ひょうしょう)・上声(じょうしょう)・去声(きょしょう)・入声(にっしょう)です。四角の中の漢字は「韻目(いんもく)」といって、漢字を「(音)」でグループ分けした時のボスになる漢字です。詳しくは後で述べます。

とにかく、ある漢字の「四声」を知る時は漢和辞典を開いてこの四角を見ればいいんです。そして四声を知れば、自然と「平仄」も知れるわけです。

例として有名な張継の「楓橋夜泊」を見ていきます。

楓橋夜泊 張継

月落烏啼霜滿天
江楓漁火對愁眠
姑蘇城外寒山寺
夜半鐘聲到客船

楓橋夜泊 張継

月落ち烏啼きて霜天に満つ、
江楓の漁火愁眠に対す。
姑蘇城外の寒山寺、
夜半の鐘声客船に到る。

起句。

「月落烏啼霜滿天」
月が傾いて、烏が啼いて、霜が天に満ちている。勢いのある書き出しです。

承句。
「江楓漁火對愁眠」
【江楓】は川のほとりの楓。【漁火】は魚を捕るためのいさり火。運河沿いの楓の向こうに見える漁火の光が「對愁眠」…旅の愁いを抱いて眠れない私の目に心に入り込んでくる。

転句。
「姑蘇城外寒山寺」
【姑蘇城】は今の江蘇省蘇州郊外にある【姑蘇山】にちなんだ地名です。

張継の時代にはすでに「蘇州」という言い方をしていましたが、あえてそこで【姑蘇】という古めかしい、時代がかった言い方をしたのです。格調を出したかったんでしょうか。

【寒山寺】は【姑蘇】城外にある、臨済宗のお寺で、現在も観光地として賑わってます。

そして結句。
「夜半鐘声至客船」
真夜中を告げる鐘の音が、客船の中まで響いてくる。ゴーンと響いてくる鐘の音を、船の中で腕枕でもして聴いてるんでしょうか。シミジミした感じです。

漢和辞典でこの詩の一字一字を調べると「四声」および「平仄」がわかります。

ここで詩全体のリズムを視覚的にわかりやすくするために、「平」を○で、「仄」を●で視覚的にあらわします。また、七言絶句では起句、承句、結句の末尾で韻を踏むという決まりがあるので、それを◎であらわしました。ここは音声だけでは全くわからないので、図をご覧ください。

どうでしょうか?

何となく漢詩のリズムが、抑揚ついてるなぁというのが、見た感じからも、伝わってきませんか?

このように漢詩は「平」と「仄」の組み合わせで美しいリズムを作り出していきます。

そして「平」と「仄」の組み合わせには、いくつかの厳密なルールが決まっています。

厳密なルールです。

和歌や俳句のルールのようにゆるいものでなく、「絶対に守らなければならない」キビシイものです。

「ええっ、堅苦しいなァ」
「詩は自由に思いのままに書くのがいいんじゃないの?」

そう思うかもしれません。

しかし!

厳密なルールがあればこそ、初心者でもルールに従ってパズルのように文字を当てはめていけば、いちおう漢詩らしきものが作れるというメリットもあります。

何より、「こうすれば漢詩のリズムは美しくなる」と長年試行錯誤が積み重ねられてきた、その成果としてのルールですので。

漢詩を作る人は、まずこのルールを徹底して頭に叩き込まなければなりません。

平仄のルール

七言絶句の場合、平仄に関して次の決まりがあります。

・二四不同(にしふどう)、二六対(にろくつい)
・下三連(かさんれん)を禁ず
・四字目の孤平(こひょう)を禁ず
・起句と承句は反法(はんぽう)、承句と転句は粘法(ねんぽう)、転句と結句は反法(はんぽう)

難しい言葉ばかりで「ゲエッ」となりますね。

でも法則を知ってしまえば難しいものではないです。

次回、具体例を挙げながら、平仄のルールについて説明していきます。

本日のまとめ

・漢字のリズム(声調)を四つに分けたものを「四声」という。
・現代中国語の「四声」と漢詩の「四声」はまったく別物である。
・「四声」は平声・上声・去声・入声から成る。
・そのうち、平声を「平」とする。上声・去声・入声を「仄」とする。
・漢詩はこれら「平」「仄」の組み合わせによってリズムが生まれる。

次回は「平仄のルール」についてお話します。
お楽しみに。

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本日も左大臣光永がお話ししました。
ありがとうございます。ありがとうございました。

朗読:左大臣