袁氏の別業に題す 賀知章

題袁氏別業 賀知章
主人不相識
偶坐為林泉
莫謾愁沽酒
囊中自有錢

袁氏の別業に題す 賀知章
主人 相(あい)識(し)らず
偶坐(ぐうざ)林泉(りんせん)の為(ため)なり
謾(まん)に酒を沽(か)うを愁(うれ)うること莫(な)かれ
囊中(のうちゅう) 自(おのづか)ら 錢(ぜに)有り

現代語訳

ここの主人と面識は無いが、訪ねて来てこうして
主人と向かい合っているのは、ただこの庭を見たいからである。
そうやたらと、私のために酒を買わないといけないなんて、気を遣ってくれますな。
財布の中に、ちゃんと銭は持っております。

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語句

■袁氏 未詳。 ■別業 別荘。 ■偶坐 主人と向かい合って座ること。 ■林泉 袁氏の別荘の林や泉のこと。名園。 ■謾 みだりに。 ■沽酒 酒を買う。 ■囊中 財布の中。

解説

袁氏がどういう人物かわかっていませんが、作者賀知章は、ふらっと袁氏の別業…別荘を尋ねて行ったのです。いやあ立派な庭園ですなあ。風流とはこういうことでしょうね。はあ。ところであなたはどなたですか。や、お気遣いなく。あなたのことは私、まったく知りません。は、知らない。ええ、ええ。しかし客だからといって、気を遣わないでもいいんですよ。そんな酒を用意しようなんて、思わないでください。この通り、財布に銭は入っていますから。ふ面白い御仁だ。これ、こちらのお客人に酒の用意を。そう言って歓迎されたか、叩きだされたか、結末はわかりませんが、賀知章の浮世離れした仙人っぷりがよく出ている詩です。

作者 賀知章

賀知章(659-744)。中国盛唐の詩人、書家。字は季真。会稽紹興(浙江省)の人。李白を見出したことで有名。李白が任官を求めて当時、長安の歌壇の権威だった賀知章を訪ねてきた。その時、賀知章は李白の文章を見て「君は謫仙人だな」と言った。謫仙人とは、罪を得て天界を追放された仙人のこと。李白はこの称号を気に入り、後々、自分からも使った。賀知章は大の酒好きで、杜甫の「飲中八仙歌」の中で、八人の酒飲みの筆頭に挙げられている。自らを故郷の山、四明山(しめいざん)になぞらえ四明狂客(しめいきょうかく)と呼ぶ風流で、豪放磊落な人物だった。それもあって李白とは気があった様子である。天宝年間のはじめ、朝廷に乞うて道士になりたいと言い出し、郷里に帰った。その時玄宗皇帝は、何か褒美が欲しいかと問うと、賀知章は故郷の湖が欲しいといったので、賜った。

朗読:左大臣